「スカイ・ハイ」を聴きながら

【無料で全文お読みいただけます】

1975年にイギリスのソフトロックバンドのジグソーが発表した「スカイ・ハイ」は、誰しもが何らかの形で耳にしていると断言できるほどのヒット曲で、いまやスタンダードナンバーでしょう。でも、この曲がそもそも何の曲だか知っている人は、もうかなりいろいろな意味でオジサンオバサンのオタクだろうね。

「スカイ・ハイ」がこれほどの人気になったのは、仮面貴族の異名をとったプロレスラー、ミル・マスカラスの入場テーマ曲に使用されたからだ。70年代後半の日本でのマスカラス人気は凄まじいものがあって、全日本プロレスはしょっちゅうこの人気者を来日させていた。マスカラスは本国メキシコやアメリカでも人気があったが、日本での熱狂ぶりは別格だった。

今の目で見るとそう驚くべきことではないが、当時は立体殺法を使うヘビー級というだけで充分驚異だったし、覆面レスラー=悪役という図式に終止符を打った点でもマスカラスは偉大だった。ちなみに彼の弟二人もプロレスラーで、エル・シコデリコは大成しなかったが、末弟のドス・カラスは兄とのコンビで人気者になり、さらにその息子はのちにWWEで世界的スーパースターとなっているので、自分で調べてね。ちなみにマスカラス本人は、まだ現役プロレスラーだったりする。

ということで、「スカイ・ハイ」はプロレステーマ曲の名作になっているわけだが、じつはこれ、もともとは映画主題歌なのだ(知ってる人は知っている)が、もうそんなことは忘却の彼方に飛んでいるようだ。コンピレーション・アルバムに収録されるときも、たいがいは「プロレステーマ曲集」の類に収録され、「映画音楽集」で扱われることは、まずない。

1975年の作品で、1976年に日本でも公開された映画「スカイ・ハイ」の主題歌として作られた曲なのだよ、ほんとは。香港とオーストラリアの合作映画で、英語の原題は「THE MAN FROM HONG KONG」、中国語題は「直搗貴龍」という。マスカラスのテーマになったのは、映画が公開されたよりだいぶ後のことだ。

この映画「スカイ・ハイ」がなぜ忘れられているかというと、理由は簡単で、あんまり面白くないからだ

主演は香港、台湾の映画界で、いろいろな意味で怖れられている大物ジミー・ウォン(王羽)。本来カンフースターの彼が、めずらしく現代ものの刑事に扮している。共演が「女王陛下の007」で2代目ジェイムズ・ボンドを演じたジョージ・レイゼンビーで、彼がウォン刑事に追われるギャングのボス。ちょっとはマシな感じのキャストに見えるが、まあそうでもない。

邦題と主題歌のタイトルのように、冒頭では、当時まだめずらしかったハンググライダーを使ったアクションがあるものの、あとは凡百のカンフーアクション。この時代のカンフーアクションはさすがに古く、のちのジャッキー・チェンのものとは比べるのも気の毒になるくらいだ。まあ、典型的なB級アクション映画だったわけだ。私も何度か見たが、ほとんど印象に残っていないよ。

けっきょく映画はヒットせず、のちにはテレビの安物洋画劇場でしょっちゅう見かけたが、それっきり。主題歌は仮面貴族のおかげで生き残ったが、肝心の映画のほうは忘れられていったということだ。

ところで、この曲を作ったジグソーというバンドも、けっきょくヒット曲はこれだけの「一発屋」に終わったようだ。まあ楽曲印税は今でも入るんだろうけどね。メンバー諸君は、いま何をしているんだろうか?

余談だが、この「スカイ・ハイ」が公開された前後には、ジェームズ・コバーン主演の「スカイ・ライダーズ」(これは小粋なB級アクションの佳作)や、第1次世界大戦の空戦もの「スカイエース」などがあったことから、「空中映画の大ブームが来る」という新聞記事が出たりした。もちろん、そんなブームは来なかったけどね。

【本文はこれで全部です。もしもお気に召しましたらご寄進下さい(笑)】

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?