大王の没落
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UMA(未確認生物)は好物だ。
「ネッシー」とか「イェティ」とか「ビッグフット」とか「ツチノコ」とかいろいろと好きなのはいるが、子供のころからいちばんのお気に入りだったのが「大ダコ」「大イカ」だ。
最初に出会ったのは、「キングコング対ゴジラ」でコングに殴られる大ダコだったか、「ウルトラQ」の大ダコ怪獣スダールだったか、あるいは『海底二万マイル』で襲ってくる大イカの群れだったか。
ヌメヌメしていて、しかも無機質な、生物っぽくない感じが気に入っていたのかな。
子供のころに愛読した子供向け怪奇本などでは、伝説の怪物クラーケンになぞらえていたり、バーミューダ海域で船が消滅する犯人に名指しされていたりしたが、当時はほとんど生息が確認されておらず、海岸に漂着した巨大な触手の残骸とか、マッコウクジラの身体に残った巨大な吸盤の傷痕とか、そんな間接的な「証拠」ばっかりなのが、いかにも「未知の怪物」っぽくて、興味をそそったものだ。
ずっと時代が下がって大人になってから、マイクル・クライトンの1987年の小説『スフィア 球体』に出てきたのが、ダイオウイカ。その小説中、「生態はほとんど不明」とか「生きているダイオウイカを見た人はまだいない」とか心を震わせる説明が出てきて、大いに気に入った(映画化された「スフィア」は、そのへんやや期待外れだったが)。
その後、大英博物館で実物大の模型を見て感動したり、国立科学博物館でホルマリン漬けの標本を鑑賞したりして、ますます大イカ愛を深めてきた。この間も、あちこちで漂着死体が見つかったり、漁網に引っかかった映像らしきものが出たりはしていたが、依然として、ダイオウイカはUMAだった。
そこへ、昨年NHKが、深海で、生きて動いているダイオウイカの姿をハイビジョン撮影に成功したのだ。
番組、見た。興奮した。光り輝くダイオウイカの姿に感動した。
映像を中心にしたドキュメンタリーとしても面白かったし、撮影までの記録をまとめた本も熟読した。
そうか、ダイオウイカ、ちゃんと実在したんだ。
……で、終わり。ダイオウイカの魅力は、すっかり薄れてしまった。
そう、もう奴らはUMAではなくなったのだ。そりゃそうだ、確認されちゃったんだから、「未確認」じゃなくなったんだ。
そのうえ、撮影場所は小笠原諸島だった。なんだ、じつはダイオウイカって、東京都内にいたんだな(笑)
だから、今はダイオウイカは「神秘のUMA」じゃなくて「デカいイカ」に過ぎない。私のいちばんのお気に入りUMAの王座は、「ウルトラ巨大ダコ」のオクトパス・ギガンティスに移動した。
UMAの宿命がここにある。「実在が確認された」その瞬間に、そいつはUMAたる資格を喪失し、ただの新種生物に成り下がってしまうのだ。
「ネッシー」も「イェティ」も「ビッグフット」も「ツチノコ」も、見つかった途端に、大きな水生動物、デカいサル、珍しいヘビに過ぎなくなる。
なんて悲しい存在なんだ、UMA。
奴らのためにも、私の趣味のためにも、UMA諸君には人類に「発見」されずに、逃げ切っていただきたいものだ。
【本文はこれで全部です。もしもお気に召しましたらご寄進下さい(笑)
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