未発売映画劇場「ジェシーを狙うのは誰だ?」

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こなれないタイトルですねえ、「ジェシーを狙うのは誰だ?」って。大昔、「何がジェーンに起ったか?」って映画がありましたけど、関係ないです。こちらは、原題「KDO CHCE ZABÍT JESSII ?」の直訳だそうですが、いや私も読めません。チェコ映画なんです。

私たちの世代だと、60年代のチェコ(当時はチェコスロヴァキア)というと「共産国家」で「鉄のカーテン」の向こう側というイメージですが(もうどっちも死語または歴史用語だな)、実際には1960年代中ごろのチェコ映画では「チェコ・ヌーヴェルヴァーグ」と呼ばれる運動が盛んで、アカデミー外国語映画賞を受賞するなど、内外での評価が高かった時期です。それも1968年のいわゆる「プラハの春」までですが。

さて、この「ジェシーを狙うのは誰だ?」は1966年の作品なので、そうしたヌーヴェルヴァーグの薫り高き名作かというと、そんなことは全然ありませんね。奇想天外かつコミカルかつお気楽な活劇です。

私は、前にも書いた「シェラ・デ・コブレの幽霊」を見た2010年8月の日本SF大会(TOKON10)での上映会で見ました。ただし半分だけ

いろいろあって、前半しか見られなかったんですよ。けっこう痛恨。というのも、この映画、バツグンに面白かったんです。ヘンな意味で。

簡単に言ってしまうと、夢を実体化する技術が巻き起こす変てこな騒動を描いたコメディ。ほんとにこれだけ。ところがこれがバカに面白い。まあ、非常な希少作品を見ているという心理が作用したせいもあるでしょうが、半分しか見ていないにもかかわらず、面白かったと思わせるパワーがあったのは確か。

夢の世界から出てきた金髪美人のヒロイン(これがジェシー)が可愛いのもさることながら、彼女を追う悪役がスーパーマンとカウボーイのコンビなのがまたオカシイ。そりゃ、当時の共産チェコであれば、悪役がアメリカっぽくなるのも当然でしょうね。この時期のアメリカのB級作品の悪役がだいたいロシア人だったことの裏返しと思えばよろしい。そういえば007が悪役になったブルガリア産のスパイ小説『007は三度死ぬ』(アンドレイ・グリャシキ/1985年)ってのを読んだこともあったよなあ。

しかも、このいかにもワルそうなスーパーマン&カウボーイと、ヒロインのジェシーちゃん、コミックの中から抜け出した存在なので(メンドクサイので説明は省略)、セリフがすべて「フキダシ」で出るのが、初歩のギャグなのにやけにおかしい。それを使った軽いギャグも連発されるのだが、なぜかそれもおかしい。

あえて言えば、原点に近いシンプルなギャグだけに許されるおかしさがあるってことでしょうか。「笑点」大喜利の林家木久扇のお答えを思い浮かべてみてください。

共産政権下のチェコで、よくこんなふざけたモノが作れたなとつくづく感心するのですが、考えてみればソ連のモス・フィルムにも「妖婆・死棺の呪い」などという大珍品があったのだから、そう不思議ではないか。国家体制とか権力とかが創作者に与えられる制限や影響なんて、そんなにたいしたものじゃないぞという証拠かもしれないですね。

ただ1966年の娯楽映画なのにモノクロだってあたりには、時代を感じますがね。この時期の英米では、すでにモノクロ映画は特別な効果を狙うか、よほどの低予算映画でないと(とくに娯楽映画では)少なくなっていたはず。このへんは「東側」の映画なんだなと思わせますね。それにしても、ジェシーちゃんの艶姿やスーパーマン氏の衣装は、総天然色で見たかったものですが。

さてこの映画、チェコ大使館などでちょぼちょぼと上映会が開かれたりしていただけなので、再見はムリかと思っていたのですが、最近アメリカの某所からDVDが入手可能なことがわかりました。まあ、最後まで見たらガッカリ映画なのかもしれませんが、こうなったら確かめてみなくては。そんなに高額でもないですし。

そのうち荷が到着したら、さっそく見てみよう。ああ、楽しみだ

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