銀幕のプロレスラー

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プロレスラーのオックス・ベイカーが亡くなった(2014年10月29日)。合掌。

巨体にスキンヘッド、そして異常にモジャモジャのヒゲという魁偉きわまりない容貌で、その狂乱ファイトとともに、一目見たら忘れられない選手だった。

オックス・ベイカーが、その容貌を生かして、映画に出演したのが1981年の「ニューヨーク1997」。廃墟と化したマンハッタンのアリーナで、主人公スネーク・プリスキン(カート・ラッセル)とデスマッチで対決する怪物のような男を演じたのだ。なかなかの好演、というかふだんの試合通りだったけど。当時の「ぴあ」の表紙にも登場して話題になった(私のまわりでだけ)

同じくプロレスラーのハードボイルド・ハガティらとともにジャッキー・チェンの「バトルクリーク・ブロー」にも出演しているし、もっと映画に出ても良かった気がする。だが、やはり本業はリングの上だったんだろう。

印象的な外見をもっているプロレスラーは、映画屋さんも使いたくなる存在らしく、昔から多くの映画で見かける。ハルク・ホーガンが「ロッキー3」をきっかけに、スーパースターに駆け上がったのは先に紹介したが、同じようにシルベスター・スタローンと共演したのが、日本でも人気のあったテリー・ファンクだ。「パラダイス・アレイ」で悪役を演じ、ほかにも数本出演したが、ホーガンのようにブレイクすることはなかった。まあ、出演時点ですでに出来上がったスターレスラーだったからかもしれないな。

スタローンといえばアーノルド・シュワルツェネッガーだが、彼との共演でのしあがったのが、ザ・ボディことジェシー・ベンチュラ。「プレデター」「バトルランナー」などで共演している。

来日経験もあるが、レスラーとしては不器用な怪力派に過ぎなかったベンチュラは、もともと喋りが得意でマイクアピールに定評もあり、WWF(当時)のテレビ中継席で解説者をつとめて知名度を上げた。それをバックに政界に打って出て、ミネソタ州知事にまで成り上がったのだから(1998年~2002年)、たいした出世だ。政治的な実績では、猪木も大仁田も神取も馳も、まったくかなわないだろう。

ちなみにシュワルツェネッガーの「レッドブル」の冒頭には、タイガー戸口(キム・ドク)も出演している。麻薬密売人だかの役だったが、プロレスマニア以外にはさほど話題にされずじまい。戸口も、これをきっかけに出世街道驀進とはならなかったな。

そして、映画でも堂々と主演を張ったのが、ラウディ・ロディ・パイパー。こちらもベンチュラ同様に口八丁を得意とした(でもレスリング技術も確かだった)レスラーだったのだが、何をどう見込まれたのか、ジョン・カーペンター監督の「ゼイリブ」で、地球上でただ一人、異星人の侵略に気づく男を演じ、一枚看板の主演をつとめるという予想外の抜擢。後にも先にもメジャー級の映画で主役を張ったプロレスラーは、彼くらいだろう。

と言えたのは、ザ・ロックことドウェイン・ジョンソンが登場するまで。「ハムナプトラ2」で痛烈なデビューを飾り、「スコーピオン・キング」で主演。その後も「ゲット・スマート」などに次々と出演し、今やハリウッドの肉体アクション俳優として確固たる地位を築き上げている。そして、それには理由があるのだ。

007シリーズに出演したプロレスラーといえば、「ゴールドフィンガー」でオッドジョブを演じたハロルド坂田が有名だが、「007は二度死ぬ」にもプロレスラーが出演している。東京の大里化学(犯罪組織スペクターの隠れ蓑)でボンドと乱闘する大男を演じたのが、ハワイ出身のプロレスラー、ピーター・メイビア。そしてじつは彼の孫が、ザ・ロックなのだ。なるほど、血筋だったんだな。

映画ファンの中には、ドウェイン・ジョンソンは「元レスラー」だと思っている人が多いようだが、それは違う。彼は今でも現役の「ザ・ロック」であり続けている。映画とプロレスの両方で、今後も活躍し続けてほしいものだ。

ひるがえって、わが日本ではというと、力道山は別として、プロレスラーが映画で主演した例はほとんどない。武藤敬司が相米慎二監督の「光る男」に主演したのと、長与千種がつかこうへいの「リング・リング・リング」に主演したくらいか。

2004年に日韓合作で製作された「力道山」には、武藤をはじめ、秋山準、モハメド・ヨネ、橋本真也、マイク・バートンら日本を主戦場にするレスラーが大挙出演しているが、そういえば見てないや。

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