サンダーボールの亡霊たち

【無料で全文お読みいただけます】

来年クリスマス公開予定の007シリーズ最新作は「Spectre」だそうだ。

ショーン・コネリー=ボンド時代の悪役のラスボスだったエルンスト・スタヴロ・ブロフェルド率いる超犯罪組織スペクターが登場するらしい。今から楽しみだ。ちなみに、「Spectre」のカタカナ表記を「スペクトル」と書いているネット記事も多いが、ここはもう絶対に「スペクター」だからね。ちなみに、悪霊とか亡霊って意味だそうだ。

ブロフェルドとスペクターが出てくるということは、著作権問題はクリアされたってことなのか。前に「幻のボンドたち」で書いたように、この問題はかつて裁判沙汰にまでなり、さまざまな副産物を生んでいる。

ざっとおさらいすると、1950年代の終わりごろ、007の映画化を画策した原作者のイアン・フレミングは、友人だったケビン・マクローリー、ジャック・ホイッティンガムとの3人共同でオリジナルの映画シナリオを作成する。この映画プランは結局実現しなかったのだが、フレミングはこのシナリオを勝手に小説化し、『サンダーボール作戦』として1961年に発表してしまった。当然裁判沙汰になり、フレミングは小説の権利は確保したものの、映画化権はマクローリーたちの手にわたってしまったという次第。

その後、イオン・プロとマクローリーが手打ちをして、なんとか『サンダーボール作戦』の映画化は実現(1965年)し、のちに「ネバーセイ・ネバーアゲイン」(1983年)としてリメイクもされている。

この小説『サンダーボール作戦』で初めて登場したのが、ブロフェルドとスペクターだった。映画シリーズでは「サンダーボール作戦」よりも前に登場しているが、原作小説ではこの作品が初めてだったのだ。

当然、マクローリーたちはブロフェルドとスペクターの著作権も主張する。映画では「サンダーボール作戦」後もブロフェルドは「007は二度死ぬ」と「女王陛下の007」に原作通り登場したばかりか、あまつさえ続く「ダイヤモンドは永遠に」にも登場してしまう(原作には出てきません)。またしても裁判沙汰になり、おかげでそれ以降ブロフェルドとスペクターはスクリーンから姿を消してしまった。

それがスクリーンに、それも正統007シリーズたるイオン・プロのシリーズに再登場するのだから、長年の確執についに決着がついたということだ。はたしてどんなブロフェルドが出現するのか、楽しみでならない。

ところで、その共作者ケビン・マクローリーとジャック・ホイッティンガムとはどんな人物だったのか。

『サンダーボール作戦』の二度の映画化にタッチし、製作者として名を残したマクローリーだが、そのほかには1959年に製作・監督した「The Boy and the Bridge」というドラマ映画があるくらいで、大した足跡は残していない。けっきょくサンダーボール裁判で手に入れた映画化権で、残る一生を食っていったようだ。2006年に死去。ちなみに映画「サンダーボール作戦」にチョイ役で顔を出しているそうだ。カジノでタバコを吸っている客の役だったらしいので、ヒマな時に捜してみるか。

ジャック・ホイッティンガムのほうは、劇作家・脚本家としてちゃんと名を残している。「秘境ザンジバー」「波止場の弾痕」「ワルツ・タイム」「スパイは暗躍する 」「放浪の王子」「潜水艦ベターソン 」といった作品があるが、まあ知らんわな。「サンダーボール作戦」以後は作品もなく、1972年に死去。

1964年に死去したイアン・フレミングも含め、裁判の当事者たちはすでに全員この世になく、再映画化版「ネバーセイ・ネバーアゲイン」からも、もう30年以上が過ぎている。今となっては、完全に昔話になったわけで、手打ちが成立するのも当然だよな。

これにて一件落着。

【本文はこれで全部です。もしもお気に召しましたらご寄進下さい(笑)】

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?