海底は涼し

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1975年に「ジョーズ」が大ヒットすると、わらわらと柳の下のドジョウならぬ、サメ映画が登場する。その流れは今日まで続いているわけだが、それを横目に、「ジョーズ」の原作者であるピーター・ベンチリーは「非サメ」の小説を書き続けた。小説家としての意地か、サメ的素養が底をついていたのか(ただしイカとかはアリ)。

とはいえ、メガヒット作品の原作者が書いた小説を映画屋さんがほっておくわけはなく、彼の第2作もほどなく映画化された。

1977年に公開された「ザ・ディープ」は、「ジョーズ」と同じく海を舞台にしたサスペンスではあるが、趣きはまったく変わる。海底に眠る沈没船の財宝をめぐる争奪戦を描いたサスペンスアクションだ。バミューダの美しい海中風景、海賊時代から眠るスペインの財宝船、百戦錬磨のトレジャーハンター、迫力ある悪役と、面白くなりそうな要素満載のストーリー。さらにヒットを確実にするため。「ジョーズ」のクイント船長役でブレイクしたロバート・ショウをトレジャーハンター役でブッキングし、現地ロケと巨大水槽での水中撮影を敢行した。まさに万全の布陣。

実際、開巻の美しい海中風景とともに流れるドナ・サマーの魅惑的な歌声で一気に引き込まれるなど、「ザ・ディープ」はなかなかの出来栄えだ。出演者も、ロバート・ショウだけでなく、宝を最初に見つける若夫婦にニック・ノルティ(今見ると、若い)とジャクリーン・ビセット、悪役にルイス・ゴセット・ジュニア、ほかにもイーライ・ウォラックやロバート・テシアと、けっこう豪華。なかでも若妻ジャクリーン・ビセットの、水着濡れTシャツ姿は、(当時まだ少年だった)私の目には、超魅力的だった。

唯一の誤算は、水中でのアクションシーンか。当たり前だが、陸上の撮影と違って、役者もスタントマンも、どうしても動きがスローになる。「007/サンダーボール作戦」などでもそうだが、そのせいでアクションの切れが悪くなるんだよね。それが長く続くと、なんかマッタリした感じなんだが、これは人類が陸棲生物である以上は仕方がない。そのかわり、水中でのアクションは見ていて息が詰まりそうになって、サスペンス度は高まるし。

というわけで、映画の出来は上々。これでメデタシメデタシになるかというと、そうはいかないのが映画の世界。

この映画、「ジョーズ」なみの大ヒットにはならなかった(ちょっと柔らかく表現しました) いま考えれば、理由はシンプルだ。

サメが出てこないから

かわりの危険生物は出るとはいえ、やっぱり「あの大ヒット作の原作者が書いた第2作を映画化」と謳い、あの大ヒット作のデザインを意識したとしか思えないメインポスターを見れば、誰しも「サメ出るの?」的な気分になるのは当然だろう。なのに「サメは出ません」って、それじゃダメじゃん

観客の期待値のベクトルと製作側の思惑のベクトルがほんのちょっとずれただけなのだが、それが致命的だったのか。「ザ・ディープ」は映画史に大きな足跡を残すことなく埋もれていったのでした。残念。

では「サメ」さえ出せばオッケイだったかといえば、そうでもなかったことはのちに「ジョーズ2」が証明してしまった。まこと、映画とは奥が深い。

とはいえ、夏の暑い季節に納涼気分で見るには充分な作品。けっして失敗作ではないので、機会があったらぜひどうぞ。

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