ジャッキー・チェンと勝負する(33)

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今回は「ダブル・ミッション」 ハリウッド製アメリカ映画で、2010年の作品。

ジャッキーが香港で作る映画では中国アイデンティティをあまり出さず、ハリウッドでは逆に中国人キャラクターが多くなるのは前に書いた(と思う)。

ということで、今回ジャッキーが演じるのは、中国人色をしっかり出したキャラクター。中国から派遣されてCIAに出向中の腕利きスパイという、なかなか破天荒な設定だ。スパイ業を引退して3人の子連れのシングルマザーと結婚したいジャッキーが、自分の家族(といっても結婚前なので家族予備軍だが)を守るために「最後の任務」に赴く。戦う相手は、原油を食う合成バクテリアを使って世界制覇をたくらむロシアのスパイ。

設定を見てもわかるように、コメディタッチのファミリーピクチャー。なので登場する悪役もマンガチックな奴らばかりだし、CIAの設備や基地なども、まるで昔々の007映画(の亜流)のようなオモチャ的ハイテクに満ちている。なんとなく「スパイキッズ」などを思い出して、楽しい。最初は母の再婚に反対の子供たちが、誠実なジャッキーに気を許し、ついにはともにロシア人と戦うというハッピーな展開も、最後まで誰一人死人が出ないというのも、お子様向けを意識してのことか。

そうしたお気楽な設定なので、ジャッキーの体術やアクションも、いつものような限界ギリギリのものではない。むしろ前面で目立つのは、高度なハイテク兵器を駆使した仕掛けのほう。もちろん、たとえば一瞬にして伸びて剣のようになるベルトとか、使いこなすジャッキーの体術あればこそのハイテク兵器もあるが。

総じて、ゆるめのアクションとカンフーファイトに終始するので、下手を打てば、かつて失敗に終わった第1次ハリウッド進出時の諸作(「バトルクリークブロー」など)の二の舞に終わるところだろうが、そうはならなかった。やはり積み重ねてきた年輪というべきか、この作品、すごくジャッキー映画っぽくなっているのだ。

それは、やはりジャッキー演じる主人公のスパイのキャラクターゆえだろう。

腕利きスパイであることを隠したまま、シングルマザーと付き合い、その子供たちに気に入られようと奮闘する人のいいスパイは、常に「善人」たらんとする、これまでのジャッキー・チェンのキャラクターの延長上にある。当初は子供たちに舐められ振り回され、慣れない家事に大苦戦するあたり、いかにもジャッキーっぽい頼りなさ。この次のアメリカでの作品になる「ベスト・キッド」の師匠キャラがあまりジャッキーらしくなかったのにくらべると、その違いがよくわかる。「ベスト・キッド」が「ジャッキー映画」になりきっていなかったのと違い、この「ダブル・ミッション」は見事にジャッキー映画になっているのだ。

最初に聞いた時には、アーノルド・シュワルツェネッガーの「トゥルーライズ」などが連想されて安易にも感じた設定だが、これほど見事にジャッキー・チェンにハマるとは。この時期のジャッキーは前述した「ベスト・キッド」も含めて、固定化しつつあった従来の自分のイメージを打破せんと、いろいろな役柄にチャレンジしていたようだが、そうした中でこのいかにもジャッキーっぽい役柄が成功を収めているのは、当然といえば当然なのかもしれないが。

本人がどう考えているかは知らないが、ジャッキー・チェンのキャラクターを生かすには、こうしたコメディタッチの作品が(少なくともハリウッドでは)ベストなのではないか。そんな感想を抱かされた。

と、いちおう褒めたが、映画そのもののオリジナリティの乏しさは、やはりマイナス。前記した「トゥルーライズ」のこともだが、子供たちがスパイ戦に巻きこまれるのも二番煎じっぽいし、石油を喰うバクテリアってのもどっかで聞いたことあるよな。なんか過去のいろいろな作品から頂戴したネタにジャッキーを当てはめて一丁上がりってな感じなのだよね。まあ、そんな重箱の隅をつつかずに、気にしないで見ていればいい映画なんだろうけどね。

  ジャッキー・チェンと勝負する 目次

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