プロレスリング004

ゴー マシーン ゴー!

全日本プロレスで、何やらオモシロイことが進行中。

事の起こりは大森隆男が、かつてゼロワンマックス時代の2005年にぶち上げた「アックス・ボンバーズ」の再結集を呼びかけたこと。当時のインディの若手を一流に育て上げるべく結成したユニットで、そのころはまだペイペイだったメンバーが、今は一流に育っていることに目をつけ、自分のホームの全日本マットで一旗揚げようというものだ。

今やヤンキー二丁拳銃として本邦屈指のタッグチームに成長した、木高イサミ宮本裕向に加え、ローカルとはいえHEAT-UPなる団体の長である田村和宏がいるのだから、けっこう強力。先に、ヤンキー二丁拳銃が現チャンピオンであるアジアタッグに、大森師匠が田村と組んで挑戦。そこで再会を果たしたのがきっかけだが、日ごろプロデュース能力に長けているとはいいがたい大森師匠にしては上出来だ。

一方、大森とは新人時代からのライバルである秋山準・全日本プロレス社長が黙っているわけがない。さっそく自らもユニット「AJレンジャー」を結成して対抗することをツイッターで宣言(このへんが大森より一枚上手か) 「行くぞ、レッド、ブルー、グリーン」と勝手に戦隊ふうのネーミングで呼びかけると、全日本所属の青柳優馬がブルーに、中島洋平(コスチュームが赤い)がレッドに(ツイッターで)名乗りを上げ、さらにひと悶着あったがSUSHIを退けてDDT所属の入江茂弘(コスチュームが緑色)がグリーンにおさまった。ノリノリの秋山社長は自らがホワイトとなり、4色のマスクまで用意する熱の入れようだ。

両チームの抗争が全日本プロレスの主流になるわけではなさそうだが、大黒柱のエース・諏訪魔が欠場中のリングを大いに盛り上げてもらいたい。

と、前置きが長くなったが、秋山社長率いるAJレンジャーの結成を見ていて、かの「元祖・増殖するマスクマン軍団」を思い出したしだい。

今を去ること30年ほど昔の1980年代半ばに、新日本プロレスに忽然と現われた「ストロング・マシーン」である。

オールドファンにはいまさらかもしれないが、この展開はけっこうおもしろかったし、その後模倣するものが多く出るくらいのヒットだった。

発端は、初代タイガーマスクで大当たりをとった新日本が、夢よもう一度とばかりに漫画の主人公をリングに登場させようとしたこと。

当時大人気だった「キン肉マン」のマスクマンを実現しようとしたのだ。実際にマスクも製作され、テレビ中継のあった1984年の8月の後楽園ホールに予告編的に登場した。ただしこのときはスキーマスクみたいなショボいオーバーマスクをしていて、キン肉マンかどうかは判然としなかったが。一説にはこの時点でキン肉マンの版権所有者側からクレームがついたとかで、けっきょくキン肉マンはリングには現われずじまい。

しかしいったん登場してしまった手前、今さら引っ込みもつかず、報道陣にリングネームを尋ねられたマネージャー役の将軍KYワカマツ(若松市政)が苦しまぎれに口走った「ストロング・マシーン」が泥縄式に採用されたという。次週のテレビ中継には、まったく別のマスクをつけたストロング・マシーンが登場した。

このマスクのデザインが、泥縄だったにしては秀逸で、ヒットの素地を作る。私も思わずレプリカを買ってしまったくらいだ(まだわが家にある)

そしてこの後、誰が考えついたのか、次々とストロング・マシーンが誕生し、見る見るうちに増殖して「軍団」になっていったのだ。途中入れ替わりがあったようだが、最終的には「1号」から「4号」までが登場した。

1号は、のちにスーパー・ストロング・マシーンと名前を変え、今も現役だったりする。その正体は、藤波辰巳がリング上のマイクで「おまえ、ヒ●タだろ」と暴露してしまったこともあるが、まあ現役マスクマンの正体を明かすのはタブーだろうから、ここでは伏せる。

すぐ後に登場した2号の正体は、韓国人レスラー・力抜山だったそうだ。いきなり東京都体育館のビッグマッチでアントニオ猪木とシングルで対戦という破格の扱い。張りきった2号はロープ越えの物凄いノータッチ・トペを場外の猪木に放って度肝を抜いたが、おかげで膝を負傷したとかで、やや尻すぼみになったのは残念だった。

その後の年末シリーズまでのオフに、新日道場に3号を含めた軍団が乱入するというパフォーマンスを決行したが、この時の3号は外人レスラーだったという。一説には、すぐのちに全日本プロレスでカンナムエクスプレスとして一世を風靡したダニー・クロファットだったともいうが。

けっきょくこの3号は当て馬だったらしく、1985年の正月早々のテレビマッチで、いよいよ本物の3号が登場するのだが、この時のテレビ中継はじつに興奮モノだった。

藤波と木村健吾の対戦相手としてリングに立ったマシーン軍団。ところが藤波・木村組は、なにやらレフェリーにクレームをつけている。放送席の実況アナ(古舘伊知郎である)が「なんでしょうね?」と問いかけると、解説席の山本小鉄が「これ、違いますよ、古館さん!」

どうやらリングに立つ2人のストロング・マシーンは、今までとは別人らしい。次の瞬間、ワカマツのまったく聞き取れない(滑舌悪いんだ)号令を合図に、花道からホンモノの1号と2号が出現。後楽園ホールは蜂の巣をつついたような騒ぎに陥った。テンポもタイミングも最高の演出で、テレビで見ていた私も思わず興奮してしまったものだ。

ただ、この「増殖」のインパクトが強烈だったせいか、その後のマシーン軍団の印象はほとんどない。

ちなみに3号は、国際プロレスの残党だった大位山勝三・説が当時は有力だった(週刊ファイトで記事になっていた記憶がある)が、のちの暴露本では同じ元・国際プロレスのヤス・フジイだったとされている。それが真実かどうかはわからないが。

4号は当時はサッパリ誰だかわからなかったが、のちにひょんなことからその正体が割れることになった。ハワイ武器密輸事件などで暗躍し、じつはFBIのおとり捜査官だったともいうハワイの日系プロレスラー・ヒロ佐々木の名が報道された際に、彼が新日本プロレスで覆面レスラーのストロング・マシーンであったことが明らかにされてしまったせいだ。正直言ってプロレスラーとしてはまったくの無名。第一次UWFの立役者でカール・ゴッチの娘婿だったミスター空中の実弟だとか、小錦の実兄で猪木と異種格闘技戦を戦ったアノアロ・アティサノエのマネジャーだったとか、タレントのキャッシーと結婚していたとか、どうも他人の名前ばかりで記憶されている。

やがてワカマツに反発した1号が軍団を離脱し、残りはけっきょく1985年の前半には、姿を消してしまった。意外に短命だったのである。

当時の記事(週刊ファイトだったかな?)には、マシーン軍団の控室で5人以上のレスラーが談笑していたとか、ワカマツが「オレたちの背後には大組織がついている。マシーンは何十人でも出せるんだ」と吠えていたりして、ちょっとはさらなる増殖に期待していたので、残念な気がした。(ただこの時点ではヨタにしか聞こえなかったワカマツのコメントは、その後1990年に、ワカマツをキーパースンにし、大企業メガネスーパーがついたSWSの旗揚げで、まったくその意味合いが変わったから、歴史ってのは面白いもんだ)

その年の夏ごろ、なぜかアンドレ・ザ・ジャイアントとまったく同サイズのジャイアント・マシーンと、マスクド・スーパースターがマスクのデザインを変えただけのようなスーパー・マシーンがワカマツの指揮下に出現したが、長続きしなかった(ただしその後アメリカのWWFに輸出され、あっちでも増殖した)

その後も1号改めスーパー・ストロング・マシンは現役を続け、いっぽうで海賊男、魔界倶楽部、宇宙パワー、LOVEマシーンズなど、マシーン軍団の類似品は続々と登場し続けた。

それだけ優れたアイデアではあったのだろう。

現在私がもっとも気に入っているレスラーの一人に、試合前にパワーポイントを使った煽りプレゼンを行なうことで人気を博している、スーパー・ササダンゴ・マシン(新潟プロレス/DDT)がいるが、彼もストロング・マシーンの遺伝子を受け継いでいる1人といえるだろう。ちがうか。

なお、リングネームの表記には「ストロング・マシーン」の他に、「ストロング・マシン」「ストロングマシン」など数通りあるようだが、まあこだわるほどの問題でもないだろう。そもそも苦しまぎれのネーミングなんだから(笑)

ということで話は戻るが、大森ひきいるアックス・ボンバーズも、秋山社長のAJレンジャーも、どんどん仲間を増殖させたら面白いと思うよ。盛り上がること請け合いだ(責任は持てないけどね)

  スポーツ雑記帳 目次

【追記 2018/4/13】 マスコミに、ストロング・マシーン引退の記事が流れた。このところあんまり試合に出ていなかったのでいまさらの感もあるが、それでも一区切りついたことの感慨もある。考えてみれば、もう上記のような事情をリアルタイムで見た人は、充分に年寄りだもんな。何はともあれ、マシーンには、お疲れさまと言いたい。そして、もう「おまえ、ヒ●タだろ」は言ってしまってもいいのかな?

【追記 2018/6/20】 昨日、マシーンの引退記念試合が行なわれた。スーパー・ストロングマシーン・エース、スーパー・ストロングマシーン・バッファロー、スーパー・ストロングマシーン・ジャスティス、スーパー・ストロングマシーン・ドン、スーパー・ストロングマシーン・NO69と、平成の世に新たなマシーンが増殖。正体があからさまなのはマシーンズのお約束(笑) そして将軍KYワカマツ(これはホンモノ)まで復活する楽しい一戦になった。残念ながら、往年の2号から4号は出現せず、ジャイアント・マシーン以下の外人マシーンズも出現しなかったが、まあこれは仕方ないよな。ストロング・マシーン、長い間ご苦労さまでした。

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