ジャッキー・チェンと勝負する(27)

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ジャッキーが一人二役に挑んだ「ツイン・ドラゴン」。1992年の作品。

生まれたばかりの双子が生き別れになり、片方はオーケストラ指揮者、もう片方は町のチンピラに成長。成人して偶然再会した二人が事件に巻き込まれるという、明朗快活なアクション。

ジャッキーが一人二役に挑む」というのが最大にして唯一の売りどころな映画だが、そうビックリするようなものではない。ジャッキーは「何を演じてもジャッキー・チェン」だから、双子のそれぞれを精緻に演じ分けるわけがないじゃないか。

「一人二役」にした意味は、双子の片方は強く片方は弱いというところを活かした「スレ違い」と「人違い」の面白味を活かしたギャグくらいか。それもよくある「双子ギャグ」に終始しているしね。二人が同一画面に入るシーンは、この時期では当然ながら光学合成(多重焼き)によるものなので、今見るとちょっとアラが目立つし。

だから、映画全体でもアクションというよりはコメディの印象が強い。ただ、この前後のジャッキーはけっこう新境地に意欲的な時期で、この作品は「ポリス・ストーリー3 」(1992年)と「新ポリス・ストーリー」(1993年)のちょうど間にあたる。なんかひさしぶりに肩の力が抜けている感じがして、それはそれで楽しい。

ところでこの作品、香港映画監督協会(香港電影導演會)が製作している。そうか、ジャッキーも監督協会の会員なんだよな。

この協会、成立は意外と遅くて1988年。なんでもこの「ツイン・ドラゴン」は協会の資金集めのために製作された映画だそうだ。日本公開当時はチャリティーのためとか言ってなかったっけな? 協会のためにジャッキーも参加せざるを得なかったってことか。

という次第で、当時の香港映画監督のトップクラスだったツイ・ハーク(徐克)とリンゴ・ラム(林嶺東)が共同監督にあたっている。

この時期「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」の黄飛鴻シリーズで絶頂期だったツイ・ハーク、「プリズン・オン・ファイアー」「友は風の彼方に」などの風雲シリーズで売れていたリンゴ・ラムが組むという豪華版に、ジャッキーが主演し、さらにジャッキー映画ではおなじみのマギー・チャン(張曼玉)と、のちにジェット・リー夫人となるニナ・リー(利智)の美女ツートップを配するなど、さすがは監督協会肝煎り企画だ。

ほかにもあちこちに50人余の映画監督が出演していて、無駄ににぎやか

ツイ・ハーク、リンゴ・ラムの両監督はもちろん顔を出すし、アン・ホイ(許鞍華)、ラウ・カーリョン(劉家良)、バリー・ウォン(王晶)、ジョン・ウー(呉宇森)といった名前も顔も売れている監督連中や、「悪漢探偵」シリーズのシルヴィア・チャン(張艾嘉)、エリック・ツァン (曾志偉)といった俳優としてもスターな監督たちまでが揃っている。もっとも、これじゃ楽屋オチ、内輪ウケのオンパレードなんだが。

そう、けっきょくこの映画、作ってる面々は楽しそうなんだが、観客は置いてきぼり。特に監督さんたちの知名度が香港ほどでない日本では、あんまり受けなかったと記憶する。

今見なおしてみると、両監督(だけでなく、たぶん現場に来ていた他の監督たちも、せっせと口出ししたに違いない)の力量を反映した過剰なまでのアクションを投入しているくせに、それをつなぐドラマ部分はほとんど面白くないのだ。それこそ手垢にまみれたような「双子ギャグ」だけなんだから。

ハッキリ言って脚本弱いよ。というよりも、かつての香港映画みたいに脚本なしで作ったんじゃないのか? 監督協会だけでなく、脚本家協会にも協力してもらうべきだったと思うぞ。

もっとも、この「ツイン・ドラゴン」は1992年の旧正月(春節)映画。そう思えば、にぎやかで明るければ何でもよかったってことなのかな。そういえば香港のお正月映画には、こういうタイプって多いよなと、納得しておこう。

コレで、いいのだ。

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