ゾンビと恐怖の女子高生

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名作ホラー映画「ゾンビ」を私が初めて見たのは、封切り前のホール試写会だった。1979年のことと記憶している。場所は、銀座だったので、ガスホールかヤマハホールだったと思う。

当時は、今と違って海外の映画情報などは、映画雑誌を介してくらいしか知りようがなかった。なので、ほとんどの映画は、限りなく白紙に近い状態で見ていたものだ。これが試写会でとなると、さらに情報は少なくなるわけで、この「ゾンビ」に関しても、まったく何も知らずに見た。

今では常識になっているような基本的情報、そもそもこの「ゾンビ」は、ジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(1968)の続篇にあたるとか、ロメロの続篇企画がアメリカでは通らずにイタリアまで流れてダリオ・アルジェントが資金を出したとか、死人がよみがえる理由は外宇宙からの謎の宇宙線によるものだとか、まったくそういった予備知識のない状態だったのだ。そもそも私は、見終わった後でも、この映画はダリオ・アルジェント監督作品だと思っていたくらいだ。今となってはとんだ笑い話だが(笑)

映画をご覧になった人はご存知のように(というか忘れられるシーンではないが)、映画冒頭で早くも、ゾンビが人肉を貪り食うシーンが出てくる。これも今日では有名な話になったが、日本公開バージョンでは独自に、このシーンにモノクロ処理がされていた。配給の日本ヘラルドが、あまりの残虐描写に自主規制し、いくつかのシーンにモノクロ処理をほどこしたそうだ。

じつは、その後何度もフルカラーバージョンで見ているのだが、初見時のインパクトは甦らない。カラーだと、かえってドライに見え、あのモノクロ画面が醸しだしていた不気味なリアルさや凄みは、まったく感じられないのだ。してみると、あの自主規制は、当初の目的をまったくはたしていなかったんだと思うぞ。なにせ、そのシーンだけで、私は完全にビビらされたんだから。

さて、本稿の主眼はそんなことではない。

当時、すでにけっこうホラー映画も見ていた20歳の大学生(私だ)をもビビらせた「ゾンビ」の冒頭シーンだが、私がもっとビビったのは、すぐ前の席でこのシーンを見ていた女子高生の二人連れ(だったと思う)だ。

この二人、ゾンビたちが人肉をむさぼるシーンを見ながら、なんとハンバーガーを食べていたのだ! それも楽しそうに。

嘘じゃないぞ。その証拠に、私はそれがマクドナルドのハンバーガーであることまで、鮮明に記憶しているのだ。

いやいや、なんたる神経かと、戦慄したものだ。女子高生、おそるべし! それ以来、すっかり女性恐怖症……にはならなかったけど(笑)

まあ、すぐに映画のほうに呑まれた私は、彼女たちがどこの高校生だったかとかのチェックはし忘れたが、「ゾンビ」を見ながら平気でハンバーガーを食べていた女子高生がいた、という事実は私の脳に深く刻み込まれたのであった。

あれから35年が過ぎている。

彼女たちも、今ではたくましいオバサンになっていることであろう(笑)

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