旅行でとらぶる(4)フロリダの謎編
【前回のあらすじ】妻を先に送りこんでおいて、あとから勇躍乗り込んだアメリカ。ところが単独行が怪しまれ入国のさいに税関で苦戦する羽目に。なんとか突破してフロリダにつきましたとさ。
さて、5年前にも訪れた、人生二度目のオーランド空港。
今ではほとんど覚えていませんが、そのころにはまだ前回の記憶も鮮やかだったので、勝手知ったる空港内をスイスイと歩き、タクシー乗り場へ。前回と違って、心に余裕があります。
運ちゃんにホテル名を告げ、ハイウェイを疾走するタクシーに身をゆだねて、ゆったり気分。車窓に流れるフロリダの夕景も、なんだか懐かしい。
なんて、旅行番組を気取っているのも、ホテルに到着して、フロントへ向かうところまででした。
フロントで名を告げ、部屋番号を尋ねると、なにやらカチャカチャとコンピューターを打っていたフロント係が、怪訝な顔でこう告げました。
「ミセス・Kはチェックアウトされました」
え? ええ?
その瞬間、まずは頭の中が真っ白になりました。
次いで押し寄せる疑問の数々。いったいどうしたんだ? 何があったんだ?
私はミステリマニアなので、数々のミステリ小説や映画の冒頭が頭の中に浮かびます。何かの事件か陰謀か、テロなのか誘拐なのか、あるいは……
と一瞬パニックに陥った私には気づかず、フロント係氏は一枚のメモを「For You」とか言いながら手渡してくれます。
そこには、まぎれもない妻の丸まっちい字で、伝言が。
「ホテルを替えました。迎えに行くので、そこで待っていてください」
やれやれ、そういうことか。まあ無事でよかった。
で、落ち着いてそのメモを見ると、そこには大事な情報が大きく抜け落ちています。
替わったホテルはどこなんだ? そして、いつ迎えに来てくれるんだ?
よく考えたら、コレ重要なことでしょ。なのに、まったく書いてない!
まあ、そのころはすでに結婚生活も5年。こんなやつだということは、すでに承知ずみでしたが、それにしてもねえ。
で、仕方なくそのホテルのロビーに所在無げに座って、時間つぶし。
ところが「迎え」はいっこうに現われない。
なにしろ観光地のホテルです。時刻はすでに夜に突入していて、ナイトライフに繰り出す観光客たちを横目に、1人ぽつねんと座っている私は、かなり気の毒に見えたようです。ほどなくさっきのフロント係氏がやって来て、声をかけてくれました。
いわく、自分はもう時間なので帰るけど、きみは迎えが来るまでずっとここで待っていていいからね。同僚にもそう引き継いでおいたから。
なんと心優しい。いや観光地ではよくあることなのかもしれませんが、けっこう感激しました。
けっきょく待つこと数時間(いや実際にはそれ程長くはなかったんでしょうが、それくらいには感じましたよ)、妻は同じくSF大会に参加している日本人の友人とともににぎやかに現われました。
「もう着いてたんだ。待った?」
どうやら飛行機の到着時間を間違えていたとか。私に怒る気力も残っていなかったのが、妻には幸運でした。
妻は妻で、新しいホテルの名前なんかはちゃんと伝言を遺したと言い張ります。はい、たしかに、帰国して自宅の留守電を聞いたら、そこにちゃんと残っていましたよ、伝言が。もちろん私が出発した後に入った伝言でしたけどね。時差くらい考えてくれよ(笑)
ちなみに、このあともうひと騒動ありました。
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