ガード下の映画館

【無料で全文お読みいただけます】

ガード下の映画館として有名な「新橋文化」が、閉館するそうだ。

学生時代には何度も通って、ここでしか見られそうにない映画をずいぶん見たもんだ。わがオールタイム・ベストのひとつ「電撃フリントGO!GO作戦」を初めてちゃんと見たのは、ここだった(その後も何度かここで見た)。「殺しの追跡」と「セメントの女」のトニー・ローム・シリーズ連続上映をしたのもここだったっけ。だんだん思い出してきたぞ。「殺し屋ハリー華麗な挑戦」も、ここで見たな。今から30年以上も前の話。

その頃には洋画専門の「新橋文化」、成人映画上映の「新橋ロマン」、邦画名画座の「新橋第3」の3館があった。

一度、「新橋第3」に岡本喜八監督の「血と砂」(その頃あんまり映画館にかからなかった)がかかると「ぴあ」で見たので、勇躍馳せ参じたら、なんかの都合で変更になっていて不貞腐れた思い出もある。

当時の「新橋文化」には、いつも一カ所だけ誰も座っていないシートがあった。仕事休憩中(笑)のサラリーマンでたいがい満席だったのだが、ぽかっとそこだけ空いているのが、劇場の最後部からでもわかるのだ。

で、しめたとばかりにゴソゴソとその席まで行くと、なんとシートの座面がない! そりゃあ、空いてるわけだよ。私も一度失敗し、以来、同じことをしている恥ずかしい客を何度も目撃して、常連気分に浸ったもんだ。

スクリーン横にトイレの出入口があって、全観客の目にさらされながら小便に行くというのも、ここならではの醍醐味だった。そこからあの匂いが漂うのは、当時の名画座では普通のことだったが。最近は、大分きれいになっていたと聞く。

「新橋第3」はわりと早くに閉館していたようだが、「文化」と「ロマン」が今日まで生き延びていたことは、けっこうな驚きではある。

社会人になって以降、前を通りかかることはあっても、ここで映画を見る機会はなかった。というか、名画座なる場所で映画を見ていたのは、専ら学生時代までだった。あれはやはり暇な時間がたっぷりないと、出来ない遊びだったんだろう。

あれから、もう30年以上が過ぎたのか。

その新橋文化も、2014年8月31日で閉館する。1957年開業だそうだから、57年の歴史を刻んだわけだ。ご苦労さまとしか言いようがない。

かつて私が通った映画館がどんどん消えていくのは、仕方ないことだろう。なにせ30年以上も前の話だから。

私は、そう遠くない将来に定年退職を迎える。退職後に暇になれば、ふたたび名画座通いでも出来るかと思っていたが、どうやらそれは叶わぬ夢になりそうである。

「映画館の時代」は終わろうとしているんだ。

【本文はこれで全部です。もしもお気に召しましたらご寄進下さい(笑)】

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?