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異次元への招待

例によってですが、昔われわれ子どもが読んでいた怪奇本に定番的に出ていたもののひとつに「神隠し」がありました。

ある日突然、今の今まで存在していた人間が、忽然と消え失せるという怪奇現象です。消えた人間は、時間を経て出現することもあれば、ついに見つからないままになることもしばしば。「神隠し」という場合は、消えるのは子どものことが多く、それこそ大昔から記録が残っています。

むかしはたいがい「天狗のしわざ」とかになっていたんですね

これは怖かったですねえ。自分が、ある日突然、消滅したらどうしようとか、ドキドキしながら考えたもんです。さいわい、今日に至るまで消滅せずにのさばっておりますが。

おおぜいの人間がいっぺんに集団で消えると、「神隠し」ではなく「集団失踪事件」になります。あんまりおおぜいになると、神さまの手には負えそうにないってことでしょうか。

これも過去から多くに記録があり、人々の頭を悩ませています。

代表的な例を思いつくままにあげれば、「ロアノーク島事件」(16世紀のアメリカで植民集団100人余が入植地から失踪)「エスキモー村消失事件」(1930年カナダ北部の村から全住民が消えた)など。集落から住民全員が消え、住居はもちろん、絶対に必要なはずの食料や衣類、貴重品も残されているなど、共通のパターンがあることが多いです。

また、意外に多いのが軍隊の消滅。たいがいは部隊全員が丸ごと消え去るもので、1711年のスペイン継承戦争中にピレネー山脈で4000人の大軍が消えた事件、1915年にイギリス軍ノーフォーク大隊がエーゲ海のガリポリ半島で忽然と消えた事件、あるいは1939年に南京近郊で3000人にものぼる中国軍兵が消えた事件などが、よく怪奇本で紹介されていました。

この手の人間消失事件でもっとも有名なのは「メアリ・セレスト号事件」で、洋上に浮かぶヨットから乗組員10人が消え、無傷のヨットのみが漂流しているのを発見されたという、1872年12月の事件。

これがかの有名なメアリ・セレスト号(マリー・セレステとかいろんな表記あります)

いずれの場合も原因は不明のままで、けっきょく誰一人発見されることはありませんでした。ああ怖い。

もちろんこれがさらに大規模に語られるのが、かの有名な「バミューダ・トライアングル」だったりするのですが、これはまた別の機会にゆずりましょう。

じつは今回これを書くにあたって調べてみたんですが、こうした集団失踪事件の大半は、はなはだあいまいな記述が多いですね。事件の起こった場所や日付がまちまちだったりするし、ディティールにもけっこうさまざまなバリエーションがあります。要するに、後世に「話を盛った」ものが多いせいでしょう。軍隊の消失なんかは、なにしろ戦争中のことゆえ、さらに記録があいまいなのは言うまでもないこと。

近年になってネット上にしばしば登場するようになったのが、「異次元世界へ紛れ込んだ体験談」 検索するとずいぶん面白げなものがヒットしますよ。

かつてはこの手の話は「異次元に行っちまったけど帰ってこれた」体験がほとんどだったんですが(そりゃそうだ)、最近はSNSの発達で「異次元世界からの実況」という新手も出てきていますね。

電車を乗り間違えたとか、ちょっと寝坊したとかいった、些細なきっかけで「変なところに来ちゃってるんだけど」という書き込みがされ、ユーザーたちがそれにさまざまなアドバイスを送るというのが黄金パターン。最終的に帰ってこれなかったっぽいのも多し。携帯のバッテリー切れで尻切れトンボというのも、よくあるパターンです。だいたい深夜に行なわれるようで、現代の怪談話としてはよくできていると思う。ついつい読んじゃうんですよね。

こうした多くの「神隠し」や「消失事件」で、たいがいいつも「解決」として持ち出されるのが、異次元世界。

われわれの暮らすのは三次元世界だが、ちょっとしたはずみで四次元世界に入ってしまって帰れなくなった、というやつ。なるほど、これならいくら捜索しても発見できないわけです。ここに「パラレルワールド」という概念まで加わって、最近は神さまの手を煩わせることなく、みなさん消滅できるようで。

現代社会でももちろん、不意に人が消えることはありますが、それはほとんどの場合「自分の意志で消えた」わけであり、あるいは痛ましいことだが「何らかの犯罪に巻き込まれた」のでしょう。そしてそうした事例は、それこそ古代の時代からあったことなのでしょう。

もちろん、怪奇現象というよりはもっと不気味な「闇」が介在しているものもあるでしょうね。先年のマレーシア航空機とか、北朝鮮の拉致問題とか。そういうのは、もはや「超常現象」とはなんの関係もありませんが。

人間そのものの存在が消えるというのは、究極のアイデンティティ消失なわけで、そりゃ怖いよね。そんなわけで、このテーマ、手を変え品を変え、これからも語られ続けるんでしょうね。

ところで、異次元世界やパラレルワールドにも、携帯の電波って届くもんなんでしょうか。私の使う通勤電車では、携帯の受発信ができなくなる「恐怖の異次元ゾーン」があるんですが(某社限定)

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