久しぶりの生演奏 @早川倉庫
コロナ禍になって、いちばん苦しかったのは生の演奏を聴けなかったことだ。。。と、コロナ禍になったからこそ気付いた。
人間ってすぐに”当たり前のもの”に価値を置かなくなるのだと痛感。その当たり前が1番愛おしいのに。尊いのに。だ。
そして、それも実際に生演奏を聴かないとその実感は沸かない。そう!数ヶ月ぶりに生演奏を聴いたのだ。実際に僕も音楽を演っていた過去もあり、今でもどんな状況でも音楽を聴いている。空気のように。でも、できる限りいい空気や、今の自分にあった空気、テンション上がる、浸れる、、、いろんな心の変化に、ぴったりな音楽を探すように、その空気をいつも求めている。でも生演奏がいちばんだ。
ある日、友人の音楽家 haruka nakamura(以下ハルカくん)から連絡が入った。ハルカくんはいつもこの映画館やぼくのことを気遣ってくれて、いろいろなものを届けてくれる。例えば、地震や水害の時にもすぐに想いを音に乗せて届けてくれたり。何度も救われた。もちろん、他愛ない日常のやりとりがいつもだけれど。そんなやりとりの中、九州で演奏することになったよという話が飛び込んできた。これは!と行く旨を伝えた。
演奏は、熊本の早川倉庫で行われた。 エクリュ・エ・プス というお店の10周年記念イベント。前週にはミナペルホネンの皆川さんも駆けつけたらしい。その演奏会は、ハルカくんから招待されたけれど、カテリーナ古楽器研究所という古楽器を製作する友人の兄妹ユニットbaobaoの未來くんとマイカちゃん、そしてリベルテレーベル第一弾音楽作品の青木隼人『日田』のミックスも手掛けてくれた田辺玄くんもいて、全国各地から集まった4人編成という豪華な演奏会だった。
熊本の渋滞にまんまとハマり、ハルカくんにちょっと遅れると一報を打つ。着いたらちょうど始まった。だから最初から見れた(聴けた)。ちょっと走って体はあったかかった。入場して、エクリュの方が”立ち見でいいです”というぼくに、それでも席を案内してくれた。その優しい気遣いも、あったかかった。
コロナでリベルテでのライブも全てキャンセル。数ヶ月、ライブを見ていない。そんなことは今までになかったから、なんだか変な高揚感があった。しかも大好きなbaobab +haruka nakamuraのアルバム 『カナタ』の1曲目”カナタ”からこの演奏会が始まるものだから、一気に世界に入り込んだ。そのアルバムの写真も撮っている写真家:川内倫子の世界観も重なり、”あぁこれこれ、この感覚がライブなんだよなぁ”ってぼく自身も数ヶ月のブランクを一気に取り戻せた。あのアルバムの音が目の前にある。マイカちゃんの唄声からは自信が感じられて、それがまた演奏会自体を凛々しくした。まさにお祝いの音楽だ。改めて10周年、おめでとう。そんな気分に包まれる。そして、未來くんの全体を支えてくれるバッキング(コーラスも!)に、ハルカくんも玄くんも自由に心地よく演奏できている安心感を感じた。これは大切なポジション。かっこよかった。ふと気付いたらフルートの音。玄くんがフルートを吹いているではないか!そんなことまでできるの?!と、びっくり。。ぼくは昔こんな風に音楽や楽器と寄り添う生活をしたかったと思ったからちょっと羨ましかった。根性のないぼくには到底できないけれど。そしてハルカくん。祈りのように、静かに切なく耳を開いていくと思えば、時にはアグレッシブに空間を飲み込んでゆく。マスクしているぼくらそれぞれの肺の動きのように、音が生きていた。マイカちゃんMC中に、ハルカくんと玄くんが思い思いに会話する音楽が素敵で、ほんとうに音楽が大好きな人たちの空気は美しいなぁと思った。終わってほしくない時間。カルメン・マキ『ムーンビーチの砂の上』みたいだ。だけど、終わりがあるからいいこともあるよねと、自分をなだめた。
4人とも、人前で演奏できる楽しさと感謝に溢れ、それをお客さんもそのまま受け取って、みんな静かに座っているけれど、感動の渦が広がっている。そんな幸せな時間は美しかった。店主さんが感極まって挨拶するその震えた声は、そんな想いがみんなもそうだったと確信することができた。そりゃ泣くよね。音楽のチカラは果てしないもんね。
そしてぼくは、やっぱりライブが、身体中に音を浴びることが好きだ。コロナ禍でも、好きな音楽をたっぷり聴いて幸せだったよと言いながら、生音に飢えていたんだなぁと気付いた。人間、自分のことすらよく分からないもんだ。体験すべきだといつも思うのは、そういうことだ。自分が持っている知らない感情と出会えるから。あら、ぼくはそんなこと感じているんだって思える喜び。だから映画も音楽も絵画も写真も文章も、、、好きなんだろう。
演奏が終わって、みんながぼくを見つけてくれた。おーいって手をあげるあの光景は感動的だ。しかも、久しぶり会うみんなは元気で余計にグッときた。いい笑顔。さらに未來くんにはお子ちゃまも生まれていて、とんでもなく光っていた。
その時には良かった!としか伝えられないから覚えている間に書こうと思って。
またみんなそれぞれに。そして、またどこかで。こんな風に仕事する時代が、すぐそこまで来ているとも確信した1日になった。ありがとう。