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横川理彦「TARASCON YEARS」

前回更新した松前公高さんの『あなたはキツネBEST』『WORKS 1989-2019』に続いて、元P-MODEL/メトロファルス/4-D、など...さまざまな活動をする横川理彦さんの1990年代作品集『TARASCON YEARS』。平沢進、山口優、今堀恒雄…他豪華メンツ参加、堂々の4枚組CDのジャケデザインならびに一部イラストを手がけました。

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僕は熱心なP-MODELファンでも無かったもので、(前述の松前さんほど)横川さんの活動に詳しくないし、本CD付属のブックレットならびに同じ時期に公開されたインタビュー記事がもっと詳しく面白いのでそちらを読んでいただきたく思います。で、ここでは自分が手がけたデザインの話をさせていただきます。

その前にもう少し、大まかなディスク毎の説明を。
コラボ集であり、90年代初頭のニューウェイヴ〜プログレッシヴ人脈との貴重な記録である1st『TWO OF US』(1990)→その参加陣から1人、EXPO山口優さんの共同Produceによる半異国半郷愁的な和みもの2nd『TARASCON』(1992)→今堀恒雄率いる偏執プログレバンド・ティポグラフィカから2人を迎え一気にプログレバンド化する3rd『MEATOPIA』(1993)。こう並べて改めて聴いてみると、どのアーティストも作風が少しずつ変わるのは当然の事ですが、この時期の横川さんに至っては作風というよりは、1作毎に作曲に取り掛かるプロセスが変わってるのが興味深いわけです。
平沢進のレーベル<SHUN/SYUN>からの4th『DIVE』(1995)と5th『SOLECISM』(1997)は2017年に再発されているため、この2作は抜粋して1枚に収録しています(+未収録1曲追加)。ここらへんはP-MODELファンの方々のほうがご存知でしょう、双方ともに(どこか奇妙な印象の前3枚に比べるとことさら)ポップな出来のアルバムです。

僕はこの中の1枚目『TWO OF US』と2枚目『TARASCON』は1999年頃EXPOを追っていくうちその存在を知りCDを入手していまして、4枚目『DIVE』『SOLECISM』の2作品は発売当時渋谷ディスクユニオンのテクノ専門コーナーでプッシュされていてジャケに見覚えがあったのですが、3枚目『MEATOPIA』の存在だけは今回初めて知りました。ティポグラフィカのメンバーが参加してるだけあり、同バンドの1st収録曲「青空だけど迷宮入り」のセルフカバーも入っています。

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どのアルバムも発売時点ではそれぞれPOPではあるものの時代感が強過ぎるというか、"総括した作品集"として2020年リイシューのジャケットにそのまま再利用するには違和感があり過ぎる気がしたもので、いろいろあってメインジャケットは『TARASCON』当時の御本人のアーティスト写真を使う事に。こちらとしてはイラストレーターの候補を選んで推薦していたのですが、スケジュールや予算などの都合あり私hitachtronicsが僭越ながら描かせていただき、ブックレットの表紙に回す事になりました。それがこれ。

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前述の通り元ジャケをトレースして描くのも何なので、何人かに相談したところ「似顔絵を描きなさいよ」との事で氏のお姿を中心に。「そういや"TARASCON"とはなんだ?(←本当にDO THE TARASCONですね)」と思ってググったらフランスの川沿いにある都市名、元々はタラスクという怪獣が川に棲んでいたという言い伝えがあり、それにちなんでつけられた地名で、氏がツアーでここに訪れた事がインスピレーションになったそうで。では"タラスク"を描こうかと思ってググるとこんな。アルバムのイメージとして描くには珍妙過ぎました…。

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そこで"川沿い"というキーワードだけを抽出、郷愁も感じるけど田舎ではない、日本のようだけど異国情緒もある…という曲のイメージから思い浮かんだのは実家の近所駒沢にもあった"給水塔"と、同じく近所に多くある熱帯系の植物園。給水塔は上野耕路のアルバムにも使われていたので、そのCDも引っ張り出しました。
さらに『DIVE』というワードから、"タラスク"に遠くないイメージの"川に棲んでいた巨大生物"から自分の趣味にぐっと近づけて恐竜スピノサウルスを。これは何度か自分のレーベルの作品でも描いているのですが、今年に入ってまた新解釈の復元図が発表された改めて大きめに描いています。ちなみに、タラスコン付近ではスピノサウルスと近縁の獣脚類の恐竜"タラスコサウルス"の化石も発掘されていますが、こちらは水棲ではありません。

前述松前さんのワークスがそうだったのですが、僕が担当する<disk union/SUPER FUJI DISCS>の一連のシリーズの盤面の意匠はライブラリ音源を意識した共通のテンプレにし、アーティストの意向によりその都度デザインを変更しています。今回は本人のご意向あり、時間の都合もあったのでこちらにもイラストを描かせていただきましたが、DISC1と2は先ほどのブックレットからもともとバラで描いていたものの再利用、3と4は新たに描き足してました。3のMEATOPIAに至ってはバンドものなのでメンバー3人の担当する楽器を描きました。

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(ニューウェイブではなく)フロア向けのクラブものから音楽を聴きはじめてそれほど時間の経っていなかった1999年頃の自分の耳には『TARASCON』の人懐っこ過ぎる音構成はあまりピンと来るものではありませんでした。しかしこの少し後に現れるSAKEROCKや、さらに2010年代以降の音楽概念"Vaporwave"に影響を受けて活動がはじまったレーベル<Local Visions>の人たち、『和レアリック・ディスクガイド』(P-VINE BOOKS刊)あたりを通すことにより、改めて2020年の自分の耳には実に新鮮に聴こえました。
40年以上もの年月、多くのジャンルを股にかけ、いま現在もヒップホップやエレクトロニカなど新たな音楽を経由、活躍を続ける一人の音楽家のある時期を切り取った記録として重要な作品だと思います。

https://diskunion.net/jp/ct/detail/1008155367


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