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『心理試験というものは、必ずしも、書物に書いてある通り、一定の刺激語を使い、一定の機械を用意しなければできないものではなくて、いま僕が実験してお眼にかけたように、ごく日常的な会話によってでも充分やれるということです。昔からの名判官は、たとえば大岡越前守というような人は、皆自分でも気づかないで、最近の心理学が発明した方法をちゃんと応用していたのですよ』

江戸川乱歩さんの『心理試験』という
短編推理小説より、一節を引用してみました
(面白い作品ですので、未読の方はぜひ!)↓

未読の方へのネタバレになるといけないので、
ストーリーがわからない部分を
引用してみましたが、
この作品で名探偵の「明智小五郎」は、
犯人が築き上げた策を、見事に打ち破ります。

有名な刑事ドラマ、
『刑事コロンボ』(ネタが古いですが)でも、
容疑者がふっと気を緩めた帰り際などに
「そうそう、もう一つお聞きしたいのですが」
「いやね、かみさんが言っていたんですがね」
と、日常会話を装って、極めて重要なことを
さりげなく容疑者に聞き、
決定的な証拠をつかんだりしています。

何が言いたいのか、というと。

完璧に備え過ぎる、
こうきたらこう、と考え過ぎると、
逆に構えがガチガチになって
柔軟な対応ができず、ボロが出ることもある、

ということです。

…野球の打席でも、そうですよね。
あまりに気負い過ぎると、筋肉が固くなり、
柔軟なバッティングができずに三振する。
「来た球を打つ!」くらいの
いい意味での開き直りのほうが、
力が抜けていいスイングができる
ものです。

もちろん、全く準備するな、
というわけではありません。

準備は万端にした上で、
ビーンボールが顔面に来るかもしれない…
来た球を打った方がいいかもしれない…
考えもしなかった不慮の事態も想定しつつ、
そういう「遊び」「悪球打ち」の部分を
残しておいたほうが、柔軟に対応できる。

そう考えると、一人だけで
あれこれ考えるよりも、
全く自分とは思考回路が異なる人に
自分の考えを聞いてもらって、
「想定問答」や「壁打ち」をしてもらった方が
そういう「脱力の無手勝流」の心得が
できやすいのかもしれません。

小説『心理試験』においても、
犯人が綿密に築き上げた論理構成に、
かえって明智小五郎が疑問を抱きます。

完璧に備えたがゆえに、虎を招き入れた。
あまりに精緻に築き上げられていると、
逆に相手は不審に思うものです。

これは、就活や転職の面接でも、
同じことではないか、と思います。

あまりにスラスラと、
一片のほころびもないかのような
サクセスストーリーの脚本を語ってしまうと、
かえって面接官は疑念を抱くのではないか。

時間制限のある面接と異なり
実際の職場においては、
長期戦・時間切れのことも多いです。
必ずサクセスするわけでも、ない。

となると面接官は、
「この人、立て板に水のペラペラだけど、
もし予期しない状況に陥った時は
どうリカバリーするのだろうか?」

と疑念を持つかもしれない、のです。
そう、明智小五郎のように…。

そこで、あえてありもしない状況や
ボロが出た時の事例を
さりげなく聞いてくる、かもしれない。
そう、コロンボ刑事のように…。

優れた面接官は、大岡越前守のように、
採用する前に相手の人間性と虚構を見抜き、
危ない人は採用しないものです。

もし仮に、虚構と嘘で固めた問答で
採用されたとしても、その後バレると
逆に危険な目に遭うことも、あります。

準備はする。できるだけ。しかし、

できるだけ遊びの部分も残しておく。
そう考えたほうが、いいかもしれません。
これは、面接に限らずプレゼンなど、
時間を取って何かを話す時にも
共通することだと思います。

読者の皆様は、どうでしょうか?
完璧に仕立てたがゆえに、かえって
失敗したことはありますか?
相手に対して
「心理試験」を仕掛けたことはありますか?

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