適切に怒(いか)る

このまえ、わたしに起きて、まだ引きずっていることを消化したい。

適切なタイミングで適切に怒りを吐き出せないと、その怒りはいくらでも私の心にこびりついていく。
うまく吐き出せなかった事実が自分を苦しめる。

おまえの頭が悪いから。言語化能力が低いから。
相手の顔色を伺っているから。八方美人かよ。
後になっても粘着質に悩んで。ばかみたい。

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いまの生活のおかげで、だいぶ差別や偏見や、女性の性的客体化に対して敏感になれていると思っていた。怒りを感じることができると思っていた。
 もともと、女性らしさとかは嫌いだった。私の髪が大体ずっと短いのも、社会に求められる女の子らしさみたいなのが癪だったから。
とにかく、あたまのなかでは、私が女であることを嫌っている。
社会でもてはやされる女らしさを、嫌悪しているはずだった。

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「きょうはいつもと雰囲気ちがって綺麗な服着てるんやね。デート?パパ活?」
(実際言われた文言とは違うけど、意訳)

頭が、うまく回らなかった。多分これを笑って流したら、絶対に駄目だと思った。
「ちがいますよ」っていうことしかできなかった。

私は、着たい服を着ただけ。スカートの方がゆるくてらくちんだから着ただけ。
最近着てあげてないお洋服を、お日様に会わせてあげただけ。

それが、なぜ、男を楽しませるためだと思われなければならないのか。
わたしが私のためにおしゃれをしたらだめなのか。
コミュニケーション手段としてそういう言い回ししかできないなら、配慮に欠けすぎている。
たぶん私が言われたことに対する反論はいくらでもあるんだと思うけど、私にはその武器がない。うまく言えない。

ほんとうは、他にも怒っていいようなことを言われた。言われたけど、何も言えなかった。

これを言われた帰り道、夜ごはんも近い時間なのにふらふらとカフェに入りおやつを食べた。
甘いスコーンと甘いホットチャイ。
食べていたら泣いてしまった。甘さとあったかさが目にしみて、いたくて、涙が出た。

私は傷ついてしまったんだなってその時気付いた。
いつも気づくのが遅いのよ。

そのあとしばらくたって、多分泣くだけじゃなくて、怒ってよかったのかもしれないっておもった。
これをツイートしたら、同意を示してくれる人もいた。
ほら、怒ってよかったんだよ。私の周りには価値観を共有できる優しい人がいっぱいいた。

でも、この出来事からもう何日も経っているけど、まだ頭に居座り続けているよ。

怒るのって難しいよな。怒りには大抵対象があるけれど、それが人であったときにその人との今後の関係性を考慮して言葉を選ばなければならない。
感情的に頭を使わなきゃいけない。そういうの、難しい。

思想強いやつ。扱いにくいやつ。面倒くさいやつ。厄介な、女。
うるさいわ。ばか。

怒りに気付くことも難しい。
殴られたときは殴られたことに気が付くのに時間がかかる。
特に殴り手に悪意がない時は、じわじわとした頬っぺたの違和感だけがある。
じわじわとした違和感と殴り手を、わたしのばかな頭では結びつけることに時間がかかる。
痛いんですけど、って言っていいはずなんだけどね。あなたの今のしぐさ、私にはパンチでしたよ。
わざとじゃなくても人を傷つけたら謝る。今後は傷つけないように気を付ける。それだけなんだけど、そのフィールドに立つことすら難しい。

きっと世の中って引き続き荒野だから、また傷つけられることがある。酷いものだね。
次はちゃんと、パンチできるようにならないと、私は私を守れない。
私は私を守る強さを、ちゃんと持てるようになりたい。
だから、ちゃんと怒りたい。


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