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『ヒ家の兄弟、あるいはヒョウとハンのいさかい』ヒスイの短編(2500字)

ある村に、双子の兄弟がいました。兄の名はハン、弟はヒョウ。ふたりは正反対の性格でした。
ハンは体も声も大きく、人前で自分の意見を言うのが得意でした。
ヒョウは小さくて、ひとりで考えるのが得意でした。
 
ある日、二人の家の壁に落書きが見つかりました。星と花を描いたものです。

ハンはかんかんに怒りました。
「なんだ、これ!。人の家にヘタクソな絵をかいて。形はゆがんで、線も曲がっている。よくこんなダメな絵を人前に出せるな。頭を疑うよ、ろくでもない人間が描いたんだろうな」

ヒョウは言いました。
「人の家に絵を描くのはよくないけれど。この絵はいいと思うよ。形は独創的だし、線には味がある。よく見たら、とてもいい。僕の個人的な意見だけれど」
 
ハンはジロリと弟を見ました。
「間違っていることは間違っていると、はっきり言うべきだ。なぜおまえは、それがわからない?。こういうやつはきちんと制裁しなきゃ、また同じことをやる。俺は広場でそう言うぞ」
 
ヒョウは困ったなと思いましたが、兄を止める方法がわからず黙っていました。ハンは広場で叫びました。
 
「俺の家にへたくそな絵が描いたやつがいる。最低の絵だ。描いたのは、ろくでなしだろう。絵を見れば性格までわかるんだ」
ハンは両手を振り、喉をそらして叫びあげました。声が大きかったので村中に響き渡りました。広場にあつまった村人は、うなずきあいました。
「俺も見た。ひどい絵だった。あんなものを描くのはクズだな」
「あたしは見ていないけれど、大声で言われると、そんな気がするわ」


興味がわいた村人はハンとヒョウの家にやってきました。ヒョウは壁の前で静かに説明しました。
「勝手に落書きしたことは悪いと、僕も思う。だけどゆっくり見ると素敵な絵だよ。僕はこの絵を残しておこうと思う」

しかしヒョウの声は静かすぎて、ほとんどの村人は説明を最後まで聞かずに帰ってしまいました。残った数人は落書きをながめ、自分なりの意見をいいました。
「そうだな、この花はとてもよく形をとらえている。おもしろいね」
「ハンの話を聞いたら、ひどい絵だと思ったけれど、自分の目で見たらいい絵だと思うわ」

何人かは、落書きをとても気にいったと言いました。何人かは、やはり好きではないと言いました。
ヒョウはそれぞれの意見にうなずきました。
「好き嫌いは、それぞれあるよ。意見が違うのが、かえっておもしろいね」

人々が帰ったあと、粉屋の娘がヒョウに言いました。
「あなたの考えは、とても柔らかくていいと思う。でも小さな声で、家の前だけで話していては大勢に意見が届かない。もったいないわね」
ヒョウは顔を赤くしました。
「そうだね、僕は恥ずかしがり屋で、ハンみたいに大勢の前で上手に話せない。どうしたらいいか、わからないんだ」

娘は少しだけ考えました。そして
「言うんじゃなくて、書けばいいと思うわ。文章を作って、この絵の横に貼ったらどうかしら」
「ああ、それはいい考えだ。でも僕ひとりでやるのは不安だし、言いたいことがちゃんと書けないかも。
きみ、僕が書いたものを読んで直してくれないか」
「いいわ」
娘もちょっと、顔を赤くしました。ヒョウは、スモモの花みたいだなと思いました。

ふたりは一緒に落書きのいいところを書いた文章を作り、それを絵の横に貼りました。
そのころには、落書きを見に来る人が少しずつ増えてきました。ヒョウの文章にうなずく人もいれば、唾を吐いて帰る人もいます。それでいい、とヒョウは思いました。



ハンは、毎日むっとしています。落書きをわざわざ見に来る人がうるさくなってきたし、絵をほめる人が増えてきたのです。
ある日、ハンはまた広場に立ちました。大きく手を振り、空に向かって叫びました。

「やはりあの絵は、ろくでなしが描いたものだと思う。そいつが誰か、あぶりだそう。責任を取らせるべきだ!」

広場に集まった人たちは、最初はそこまでしなくても、と思いました。しかしハンがリズムよく叫び続けると、だんだん体の底が熱くなってきました。

「そうだな、そもそも人の家に落書きなんて最低だ」
「悪いやつには制裁がいる」
「この村の正義のためにも、正体をさぐりだそう」

ハンがひときわ大きな声で叫びました。
「まず、あの絵を消してしまおう! 悪事は悪事。正すのが正義だ」

ハンと村人は水を持って家へ来ました。そして壁をこすって洗い、落書きを消してしまいました。
ヒョウの貼り紙も消えてしまいました。
ヒョウは、がっくりと肩を落としました。

「僕の好きだった絵は消えてしまった。僕の書いたものさえ、消えてしまった」
そこへ粉屋の娘がやってきました。
「大変だったわね」
「イヤになるよ。もう、この家には住みたくないな」

娘は少しだけ考えて、
「よかったら、うちへ来る? 部屋は余っているし、お父さんは働く人を探しているし」
ヒョウは粉屋で働くことにして、半年後、娘と結婚しました。


そのころ、村には王様の役人がやってきました。
広場に看板が上がりました。

『半年ほど前、国一番の絵師がこの地方に静養に来て、こっそり絵を描いたらしい。絵を持っているものは名乗り出るように。王様が金一袋で買い上げる』

村人はひそひそと話し合いました。
「あれよね、星と花の落書き。やっぱりね、あれには価値があると思ったのよ」
「ふしぎな美しさのある絵だった、なるほど、国一番の絵師だったのか」

もうだれも、ハンの声を聞きません。ハンは自分が消してしまった落書きに金一袋の価値があったと知り、がっくりしてしまいました。
川のほとりで座っていると、弟のヒョウが来ました。


「あの絵に気づいたのは兄さんが最初だ。見る目があると思うよ」
「だけど消してしまった。そして村の人は、もうだれも俺の言葉を聞いてくれない」
「ひとには、それぞれ考えがあるから。違いを受け入れることも大事だと僕は思う。だけど兄さんは自分の考えをみんなの前で堂々と言える。それはいいことだよ」

ハンは弟を見て笑いました。
「最後まで残ってくれたのは、お前だけだ、ヒョウ」
ヒョウは兄を見て、笑いました。
「僕たちは、車の両輪みたいなものだから。兄さんなしじゃ、僕はやっていけない。だけど、もう少し柔らかい言葉で話してくれるといいな」
「そうだな、声は大きいけどな」

ヒ家の兄弟は、いつまでも川面を眺めていました。

【了】(約2500字)
作中の画像はPixabayから
ヘッダーはha11okによるPixabayから



ヒスイは昨日、大変なことを忘れていました!
「しっぷちゃん・ドラマティックな31日間~めざせ!早起き鳥ヒスイ」。昨日と今日の起床時間は…

8/8 8:02
8/9 9:16


ええ。いいんです、もう(笑)
昨日は遅くまで仕事していましたので、9時起きなのは、わかっていたんです。
むやみに早起きを目指すのではなく、
起床時間を自分でコントロールすることが、
大事なんだなと、気づきました!
しっぷちゃん、ありがとう。
いや、まだ続けるけどね(笑)? 早起きしたほうが、効率がいいってわかってきたからですよ。

ではまた明日! 明日も短編…だせるかな(笑)?


NNさまの企画93
#ヒスイの鍛錬100本ノック
#お題・落書き

今後のお題
【54】蜘蛛  【82】★みなとさん3★ 
【89】★みなとさん4★  【94】はらごしらえ 【95】ロングヘア 【96】遅配  【100】カブト
消えているけど【鳥獣戯画】。書いてないです。ぜったいに(笑)


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