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『さよなら、元カレ。ブロッコリーダンス』イシノアサミさん・ひと色展 参加短編(約900字)

 学校から帰ると、うちのリビングに“ブロッコリー”がいた。
 モコモコのグリーンのパーマヘアが、コッチを見る。髪の持ち主は、近所に住むヒスイ叔母ちゃんだ。たしか先週はブラウンヘアだったのに……。

「お帰り、澄(すみ)」
「……ただいま」
 スクールバッグを置いてキッチンへ入った。ママに聞く。
「――なに、あれ?」
 ママは肩をすくめた。
「さあ? ヒスイだから」

 ヒスイちゃんは、A地点からいきなりH地点へジャンプするタイプだ。さらに途中でころげ落ちて、予想もしないQ地点へ到達するタイプ。
 つまり予測不能。心配するのもバカらしい。

 おやつを持ってリビングに行く。ヒスイちゃんの隣に座り
「なんでグリーンにしたの?」
「ずっとやってみたかったの。でも染めようとしたら元カレに ”老けて見えるからやめろ”って言われたのよ。やりたかったのに、やらなかった。彼の好きな黒髪にした。

ずっと忘れていたんだけど、仕事でおととい彼に会ったら思い出して、めちゃくちゃ腹が立って――ねえ澄、写メ撮ろうか」

 ヒスイちゃんはタブレットをかざした。あたしは仕方なくカメラに顔を向ける。顔がわからないように画像を加工してから、SNSにアップした。
 たちまちコメントが入ってきた。ヒスイちゃんの友達は、みんな大ウケしていた。
 だけど一つだけ、怒っているみたいな短いコメントがあった。

『グリーンはだめです。老けて見える』
 発信元のアイコンはイケメンふうの自撮り写真。ヒスイちゃんが、つぶやいた。

「――こいつ、二年前と同じことを言ってる」

 どこかから風が入ってきて、ヒスイちゃんの髪が揺れた。まるでダンスしているブロッコリーみたいだ。

「その髪、悪くないよ」

 あたしが言うと、ヒスイちゃんはタブレットを切って、笑った。笑うたびに緑の髪がほわふわした。

「あたしも気に入ったの。さて、台所でお姉ちゃんを手伝ってこよう」


 その夜、ヒスイちゃんは食卓のブロッコリーをひとりで全部食べた。食べるたびに髪がフワフワゆれた。
 四月の陽光のもと、タップダンスをするブロッコリーみたいに――ヒスイちゃんの髪は、かろやかに輝いていた。


【了】

イシノアサミさんの 「ひと色展」企画に参加しています。

コラボさせていただいた色は
「【色】パーマネントグリーンNo.2 “おおらかなやさしさの色”」
です。


あたたかい色づかい、やわらかい線。
心が優しくなるイラストは、ヘッダーにもお借りしました。
イシノアサミさま。ありがとうございます💛



#ひと色展

本日も、ありがとうございます。
また明日、元気なヒスイ日記でお会いしましょうね💛

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