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「この世界のがけっぷち、5ミリのところで立っている」

「何も考えずに無神経になってしまうよりは「こうしたかったのに悔しい」と思っているほうがずっといい」沙村広明


ヒスイには、大嫌いなクリエイターがいます。
キム・ジョンギ。
ライブドローイングのアーティストです。

かっこいい。文句なく、かっこいい。
キム・ジョンギは、数メートルにおよぶ白紙に、筆ペン一本で立ち向かう。
ひとつのキャラクターを描き、そこからどんどん描き足していく。
最後には、すべての絵が有機的に連携して、完成する。

鳥肌が、立つ。
自分の背骨がガラガラと音を立てて崩れていくのがわかる。
最後には

死にたくなる。


何かを作ることなんて、意味がない。
やめようと思う。
この世界には、キム・ジョンギがいるのだから。




このキム・ジョンギですら、若い時には持ち込みに行った出版社に軒並み断られ、
「いい絵だけど、うちの雑誌には載せられないなー」と言われたそうです。

だから、売れる線へ行こうか?? と迷った時があったという。
結果的に、自分が描くべきものは売れ筋に寄せていくことではない、と覚悟を決めて独自の道を進んだ。

1年後、韓国の漫画界はキム・ジョンギを受け入れ、連載がスタート。
漫画家としてキャリアを積みはじめます。
1年。
たった1年の間に韓国の漫画界は大きく変動していて、
キム・ジョンギの絵は高く評価されるようになりました。

その後はライブドローイングという、
公開の場で、リアルタイムでどんどん絵を描いていくパフォーミングアートの世界に飛び込んで
今では世界中で高く評価されています。


とにかく。
圧倒的な才能、なのです。
こういう人は、クリエイターにとって毒になる。
自分はこうありたい、と思うモヤモヤした概念が
あっさり人間の形になっているのだから。

キム・ジョンギの絵を見て、筆を折ったクリエイターが100人いても
不思議はない、とヒスイは思います。



最近の若者? の言葉で
『圧倒的に差があって、どうにもかなわない』という状態を
【レベチ】というそうです。

レベチ。
完全にレベチ。
キム・ジョンギのようなひとが、同時代に生きていると思うだけで
ヒスイは死にたくなります。
仕事中にふと

「いやいや。
この世にはキム・ジョンギがいるんだから
ヒスイレベルの人間が、クリエイトする必要は、ないわ」って
思うんです。

アホみたいでしょ?
でも、深夜に一人で仕事をしていると
本気でそう思うんです。
1時間くらい、デスクに突っ伏して、うめいていることがあります。

時間の無駄や(笑)
朝までに仕上げて、お客さんに送らにゃならんのだから
1時間もうめいている余裕はないんです。

それでも。
ふと頭の中でそう思ってしまうと
もう、手が動かない。
脳内ではキム・ジョンギが、やすやすとアイディアの奔流を乗りこなし
次々と絵を描いている。
バックでは、なつかしのニコニコ動画みたいに
文章が流れてくる。

『天才やん』
『すげーーーー_| ̄|○』
『もう世界中の絵は、キム・ジョンギが描けばいいんじゃね?』
『キム・ジョンギ以外のクリエイター、いらんわ』
『カ・ン・パ・イ~~~』


ばたり、と倒れたヒスイの耳に、デジタルタイマーの音が聞こえる。
作業効率を上げるために、25分ごとにタイマーが鳴るのです。
昨日の夜も、タイマー音がした。
ヒスイは、ふらりと立ち上がりました。



外は、雨が降っておりました。
大変にみっともない話ですが、ヒスイは泣きながら歩きました。
深夜2時。
正直やばい風景です(笑)。

もう若くもない女が
雨の中、ぼろぼろと泣きながら歩いている。
仕事で切羽詰まっている、というのもあるが

noteの中で、これまたすごい才能をみつけて
クリエイターとしての自信が雲散霧消した、というのもあるが

ときどき、もう何もかも投げ出したいって
思うことがあるんです。


そんな時は
コンビニに行く。
コンビニに行って、中に入らず
駐車場からじっと見ているんです。

光りかがやく箱の中には
ふつうのひとの日々を支えるために
24時間、シフトをつなぎながら働く人がいる。
誰かのために、
働く人がいる。

ヒスイは、社会のバトンリレーから
少し外れたところにいるのかもしれないけれども。
でもやっぱり
この世界のがけっぷち、
はじっこ、ぎりぎり5ミリくらいのところに
爪先で立っているのだと思える。

自分のやっていることに、意味はないのかもしれないが
少なくとも
待ってくれるお客さんがいる。

だから。
どうせ死ぬなら、
あの仕事、仕上げてから死ね。
今、手に持っているオーダーを
仕上げてから、死ね。

ヒスイは、キラキラするコンビニを見ていると、
根拠もなく、そう思えるんです。


昨日の深夜2時も、そうやって泣きながらコンビニを見て
帰って仕事を仕上げました。

朝 3時半。
お客さんにデータを送り、シャワーを浴びて出てくると
早起きの同居人が
いつもより1時間早く起きて
コーヒーを入れてくれました。


「仕事、上がったか?」
「30分前に送った」
「相変わらずギリギリやな。毎回、よう落とさんなって思うわ」
「アホみたいやけど、ギリギリにならな、出て来んのやもん」

雨は降りつづいて、
朝4時は、ほんのり白いだけで。
明るくなくて。

コーヒーは
ヒスイの手の中で
湯気を立てていた。




ヒスイは、キム・ジョンギが大嫌いです。
今生はだめでも
生まれ変わって、来世で
キム・ジョンギに1ミリでも
近づけたらいいと思う。
それくらい、嫌いです。

そして今日も
ヒスイは手の中にあるだけのもので
戦います。




この日記。内容が内容なので
明日の昼まで公開して
あとは、有料記事を集めている『ヒスイカフェ』に
引っ越します。

⇒下書きにさげようかと思いましたが
 皆様から心温まるコメントを多数いただいたので
 このまま残します!

『ヒスイカフェ』には、別の有料記事をのせることにしますー!
新しく書かなきゃね(笑)。


ヒスイもまた
日々戦っています。
いつか、
目の前に見えているものを
見えているそのままで皆様に伝えられるような
線と言葉を乗りこなせる日まで

深夜のコンビニを何回も眺めて
がんばります。


あきらめることは
信じてくれた人を裏切ること。
それはぜったいに
したくないから。


ヘッダーはonebowlによるPixabayからの画像

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