「すべての女子にハッピーエンドを」ミムコさんのノトコレに応募します💛
『返却不要、ジュリエット!』410字の恋①
『ジュリエットルビーを返却せよ』
これがウチの家訓だ。
ジュリエットルビーは王家所有の巨大なルビー。 だが本物はうちにある。大泥棒だった祖父が盗んだからだ。代わりに精巧な偽ルビーを置いてきたから、今までバレていない。
しかし泥棒は泥棒。あたしはルビーを返そうと決めた。
曽祖父の悪事をばらすわけにいかないから、とうとう王宮に忍び込むハメに。
深夜、王宮の屋根にとりついて天窓をそっと開ける。
釣り糸を垂らす。糸の先には強力接着剤付き。
釣り糸は、ぴたりとルビーが張りついた。いそいで偽ルビーを回収。
本物を天窓から放り込み、大急ぎで逃げた。
その日からあたしは安心して眠った。
翌週、恋人にプロポーズされた。嬉しい! 彼は巨大なルビーを取り出して、
「黙っててごめん。実は僕、この国の王子で――
代々プロポーズにはジュリエットルビーを使うんだ」
あたしは、めまいがした。
また本物が戻ってきちゃった。
……ん?
今度はもう、返さなくてもいいのか(笑)。
【了】
『ちょろい女の緑茶は、にがい』390字の恋②
しばらく放置していたカノジョの部屋へ行った。こいつはおとなしい女だから、俺が2カ月ほど浮気しても大丈夫。放置しても文句も言わない。ちょろい女だ。
部屋に入ると、すぐにメシが出てきた。うまい。料理がうまい女はポイント高いよな。
ああ、ここはラクだ。気を使う必要もない。
食後、いつものようにお茶が出た。手に取って、じっと中身を見た。
……お茶じゃない。
コーヒーだ。
何も言わなくても、いつも緑茶なのに。
俺は顔をあげる。彼女はにこにこと笑っている。
それから気づいたように、
「あっ、お茶だよね」
緑茶の匂いがする。
いつもと同じ動作で、彼女がお茶を入れる。
耳に、見たこともないピアスをつけてる彼女が。
化粧の変わった彼女が。
髪の色と髪型を変えた彼女が――お茶を入れている。
「はい、どうぞ」
がぶりと飲んだ緑茶は――いつもとまったく違う味がした。
にがい。
【了】
『この”音”は、満期になりました』540字の恋③
ある日、手紙が届いた。裁判所からかな? 僕は今、娘の親権をめぐって妻と裁判中だ。
だが封筒の裏には「株式会社のおと」とある。なんだ、これ?
『十年前にお預けになった『音』が満期になります。ご連絡ください』
電話番号が書いてあった。サギかもしれないが……。
「はい、株式会社のおと、です」
「満期の連絡を受け取りましたが」
電話口の相手はていねいに、
「お客様がお預けになった『音』は次の火曜日で満期です。払出しをなさいますか?」
「……お願いします」
よく分からず電話を切った。
火曜日、僕は親権を取るために家庭裁判所にいた。調停員に向かい、
「親権は絶対に手放しません。妻と娘が何と言おうが――」
その時、頭上から柔らかい声が聞こえた。
『きゃはっ……きゃきゃっ』
透明で、まろやかな赤ん坊の声だ。これが満期の『声』……。
思い出した。
娘の誕生時に、妻が『笑い声の定期預金』をしたのだ。預け先は『株式会社のおと』。
十年前、僕はすでに最高の元金を受け取っていた。
生まれたての娘の笑い声を。
ぽたり、と涙が落ちた。
「これ以上、親権を争いません。何もかも娘の希望どおりに――」
娘よ。これが、きみに贈る利息だ。
生まれてきてくれて、ありがとう。
【了】
「僕が捨てた彼女は、艶冶なカラス」410字の恋④
彼女の声が夜の町に響いたとき、僕が捨てた天使が歌っているのだと、すぐにわかった。
クリスマスイブの街角。華やかなイルミネーションの点滅にのって彼女の声が波のように寄せてくる。曲はベッリーニのオペラ『ノルマ』から『清らかな女神』。伝説のオペラ歌手、マリア・カラスが得意とした名曲だ。
何も知らない婚約者は、「オペラ曲かしら。すてきね」と言う。
僕は目を閉じた――佳乃(よしの)の声だ。
張りのある高音、ソプラノ・リリコ。深い愛情を歌い上げる奇跡のオペラ歌手。僕が金のために捨てた女。
きみは僕を責めない、恨まない。
ただイヴの夜に、恋人に裏切られた激情の『ノルマ』を歌うだけなんだ。
僕が、何を失ったのか教えるために。
町中に、僕の裏切りを艶冶に知らせるために。
歌が終わる。最後の音はキラキラと光を帯びながら消えていった。
拍手が沸き立ち、佳乃は一礼して微笑む。
僕を見て、『捨てたのは、あたしのほうよ』と笑っていた。
【了】
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