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『きみの”ケーキ度”は上限を超えてる』ヒスイの鍛錬・100本ノック⑫

 ある朝、おきるとママがパウンドケーキになっていた。
 比喩でも何でもない。ほんのり紫色の、おいしそうな一本のケーキが台所で朝ごはんの支度をしていたのだ。あたしは近づいてクンクンと匂いをかいだ。
 甘い匂い。ブルーベリーケーキかな?

 ママはエプロンをつけたまま、くすぐったそうに笑った。
「ちょっと、澄。早くご飯を食べなさい、高校に遅れるでしょう」
「はあい」
 あたしはごはんとお味噌汁を食べながら、ママをうかがう。パウンドケーキになっているだけで、ママはいつもおなじだ。
 そこへパパが来た。
「おはよう、澄」
 パパは抹茶ケーキになっていた。安定の人気テイスト。


 あたしは首を振りながら、鞄をもって外へ出た。
 道を歩く人はケーキじゃなかった。ごく普通の学生、おじさん、おばあちゃん、子ども。
 でも学校に着くと、人間とケーキの両方がいた。
 同じクラスの半分はケーキ。腕がタルトのひとや、お腹部分だけがシュークリームの子もいた。
 親友のちづるはホールケーキ。あたしはさりげなく、ちづるの匂いをかぐ。

 ふふん、この匂いはキャロットケーキだな。
 ママがときどき焼くスパイスたっぷりのスイーツ。上に砂糖のアイシングがかかっているから甘そうに見えるけれど、中身はスパイシー。ナツメグとシナモン、ショウガ多め、ピリッとするやつだ。
 ここであたしは気が付いた。

 そうか。“ケーキ度の高さ”は、あたしへの愛情に比例しているんだ。
 ママやパパ、ちづるはあたしに愛情があるから丸ごとケーキ。あたしを知らない人はケーキじゃないし、ほどほどに仲のいい同級生は半分ケーキなんだ。
 そこへフジサワの、いがらっぽい声が聞こえた。
 うげ。
 あたしはフジサワが嫌い。

 なぜならこいつは以前、あたしを名指しして
『おれにコクってふられて、ネットストーキングした女』
 とツイートしやがったからだ。あほらしいから無視したけど、今でも信じてる人はいると思う。
 以来、犬猿の仲。
 
 予鈴が鳴る。席に着く。フジサワの席はあたしの前。仕方なく前を見て、あたしは目を丸くする。

 フジサワは、まるごとケーキだった。
 うそでしょ? こいつのケーキ度、異常に高すぎない?
 あたしは思わずフジサワに手を伸ばした。生地は硬くて、ガリガリしている。そいつを力まかせにちぎった。

 かけらを口に入れる。
 にがいにがい味がした。
 フジサワは、真っ黒に焦げたチョコレートケーキになっていた。

     ≪了≫     

トップ画像は「congerdesignによるPixabayから」

#NN師匠の企画
#ヒスイの鍛錬100本ノック

100本ノック お題:詐欺→D&G→ケーキ→昔話→くじら→温熱ソックス(ヒスイよりのお題です)
……あっ。詐欺とD&Gをとばしてる……見なかったことにして、次に書こう(笑)


明日はお出かけなので、ヒスイ日記は夜になります。
土曜日の20時に。お会いしましょう。

みなさまのスイーツちゃん、ヒスイでした💛

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ヒスイ~強運女子・小粋でポップな恋愛小説家
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