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「きみの笑っている匂いが、した。無臭から」ヒスイの #シロクマ文芸部

透明な手紙の香り。
開封した瞬間、薄いガラスの破片のようなすがすがしい無臭が
紙のあいだから沸き立った。

かわってる……。
最近の流行ではすべてのものに、香りがつくのに。


この時代、化学技術の進歩で、多種多様な香りをあらゆるものに添加できる。
『バラの香り』『スイカズラの香り』など植物はもちろんのこと、
『夏山の朝霧の香り』や『スカイタワーのてっぺんの香り』
『ほんの少し切ない香り』、『恋の始まりの香り』などなど・

服、靴、帽子はもちろん、
USBやテキストメッセージにも匂いがついている。

私は、香りが苦手だ。
子供の頃から強い香りに遭遇すると
めまいがする。だから今は、
四六時中、マスクをして鼻腔を守っている、香りから。

無作為な幸せの強要から。

そんなとき、
突然とどいた
香りのない手紙は、
清らかに、
さらりと手から落ちた。

差出人は、
今はもういない、きみ。

封筒からは、透きとおったプリズムのような無臭が
流れだす。
無臭が、足元にたまる。

私はしゃがんで、遠い記憶に手を入れた。

透明な手紙の香りを指ですくって
静かに鼻へ近づける。


きみの
笑っている匂いが、した。


【了】

今日は、やっとやっと「シロクマ文芸部」に参加できます!!!

教えてくれた、はそちゃん、オラヴさん、ありがとうございます~💑
「透明な手紙の香り。」から始まる小説や詩を書いて
#シロクマ文芸部のタグをつけ、投稿するだけ!

締め切りは本日の21:30までです。
気軽に読みあって、コメントを入れるだけでいいので、
ぜひぜひどうぞ!

皆さまも ぜひ参加を💛

ではまた、明日、お会いしましょう。


#シロクマ文芸部

ヘッダーはUnsplashYigit ARISOYが撮影


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