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「また彼の言いなり…(笑)」ヒスイの”地図男”のための追悼文

私は本屋が好きだ。
ネットでも買うけれど、欲しい本を決めずに本屋へ行く時が一番幸せ。

シゴトも何もかも投げ出して、本屋を徘徊していると、
ときどき、あまりの活字の多さにハイになってくる。
ほら、あれ。走っている人が苦しいのに、途中で無性にハッピーになってくるやつ、ランナーズハイ。

それとおなじで、私は本屋で、活字ハイになる。
大量の背表紙ぜんいんが、こっちにむかって
オイデオイデ しているみたいなかんじ。
こっちも、身体じゅう全部を目玉にして、
『はいはいはーい、今から行きます、全部読みます! 端っこから全部読みますから!』
って、叫び返しちゃうかんじ。


でも、実際問題、全部は読めっこない。

時間は有限で、仕事もある。そうそう読んじゃいられねえんだよ(笑)。
でもなあ、あの作家も、この作家も最近読んでないし、
このジャンル、おいしそうだよなあ。
えーい、こうなりゃ、活字の海でおぼれちゃるーーー!!

なんて、ヤケクソになっているとき、
私の襟首をヒョイと掴んで、正気に戻してくれる人がいます。
彼はボソボソと聞き取りにくい声で、こういうのです。

『時間は有効に使え。
まずは俺がすすめた本をクリアしとけ。な?』

はっと正気に返り、脳内のお勧めリストに照らし合わせて
何冊かの本を棚に戻し、
厳選本をレジに持っていく。
帰りの地下鉄で本の背表紙を見て、しみじみ思うのです。

『ああ、また彼の言うままになっちゃった。
 頭じゃわかっていても、手が伸びてるの。
 カラダは単純なのね……』

……途中から、『シンデレラボーイ』の歌詞に
なっとるやないですか(笑)

家へ帰ると、無条件に彼のお勧めリストの奴隷になる。
ページを開けば約束された異世界に連れていかれる。
彼の思うままに、ねらい通りに。

『北上次郎』の指さす方へ身をまかせ、何もかもを忘れる。その恍惚感は この世のどんなイケメンをも凌駕する快楽だ——。





書評家、北上次郎さん、『本の雑誌』の創刊メンバーでもあった目黒考二さんが、亡くなられました。
ヒスイはこの方の読書力? に無類の信頼を置いていまして。
書評家としての彼が「これ、おすすめ」と書いていれば
それこそ、秒で、その本を購入していました。

ジャケ買いならぬ、『北上買い』でした。

そして北上買いした本で、ハズしたものはない。
最近で言えば、

飛鳥井千沙の『見つけたいのは、光。』
カン・ファギル『大丈夫な人』
佐原ひかり『人間みたいに生きている』
ジョン・ケネディ・トゥール『愚か者同盟』
松嶋智左『女副署長 祭礼』

……書き出したら、きりがない。
私の読書ルートは『北上次郎マップ』に従っていたし、
この先も従っていくつもりでした。

最後の最後まで、読書卿として、地獄の味噌蔵で格闘された北上さん。

ありがとうございました。
今のヒスイは、あなたの勧めた文章でできています。
この先は、
この文章を発酵させて一行でもたくさん、書いていきたいと思います。


さびしいよね、ほんとにね。


ヘッダー、文中とも、画像はアンスプラッシュからお借りしております。


今夜はこの後、ミムコさんの「ノトコレ」企画参加用に
410字の厳選! 過去作4本をまとめた記事をアップします。
ヒスイの410字のなかでも 人気のものをそろえました。
よろしければ、続けてお読みいただければ
大喜びしちゃいます💛

ではまた、明日💑

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