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中世の戦場の弓矢

戦場ロングボウ

イングランド伝家の宝刀といえばロングボウですが、実際は戦いにおいてどの様なスペックをもった長距離武器だったのでしょう?
イングランド!ロングボウ!といってもおそらく漠然としたものだと思いますので、実際のデータを元に戦場のロングボウすなわち「ウォーボウ」を見てみましょう。

ウォーボウとは呼んで字の如く戦場で使用された弓の事ですが、イングリッシュ ロングボウ、ウェルシュ ロングボウ、ヴァイキング ロングボウなどのロングボウの中でも戦争を目的として使用された、いわゆる重砲です。

戦場では集団で使用するため、ハンティングと違い精度よりもボレー射撃 (曲射) などにより矢を長距離飛ばして、遠距離から敵を牽制することや、近距離射撃で敵の騎士や兵の装甲を貫通する事が求められました。
このウォーボウで使われる戦場の矢は「ウォーボウ アロウ」と呼ばれます。


ーボウのドロウ ウェイト (弓力/張力)

戦場で使用されたロングボウのドロー ウェイトは、80ポンド (約36kg) のウォーボウ~160ポンド (約73kg) のヘヴィー ウォーボウと言われ、平均的に120ポンド(約54kg) だったのではないかと言われています。
ちなみに弓道で使われる弓は男子用の平均が44ポンド (18kg) と言われており、トラディショナルアーチェリーで使われるロングボウも45-55ポンドぐらいまでです。

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(ロングボウとウォーボウアロウの複製)


16世紀の船、ヘンリー8世艦隊の旗艦「メアリーローズ号」は1545年にフランス艦隊との海戦により転覆して沈没しました。
諸説ありますが、1982年にその中から回収されたロングボウは全て100ポンドから180ポンドで、その中のほとんどの弓は150-160ポンドのヘヴィー ウォーボウだったそうです。
実際ヘヴィー ウォーボウを使う方の見解では「せいぜい80-100ポンド」とする見方もあります。

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(戦艦メアリーローズ号)


現代のロングボウの名射手で200ポンドを引くという怪力もいらっしゃいます。
その方曰く「200ポンドまで引けるが、すぐに疲れてしまうので実際の戦いで使い続けるなら160ポンドまでが現実的だ」と述べています。


ウォーボウの射程距離

使用する弓のドローウェイトや使用する人の筋力、技術に個人差があるので一概には云えませんが、百年戦争頃 (14-15世紀) のウォーボウの射程距離は54gの矢を使用した場合およそ360ヤード (約330m)
、96gのへヴィーウォーボウアロウを使用した場合に270ヤード (約250) だったそうです。
神話や伝記の類に登場する矢の飛行距離は全くあてにならないので、当時の復元品による実験の結果です。
アジャンクールの戦いではイングランドとフランス両陣営の間が約1,000ヤード (約915m) 離れており、イングランドとウェールズのロングボウ部隊は敵の前線から300m以内まで前進し、射撃を開始していました。
つまり当時のウォーボウの平均射程距離が300m前後だったという事です。

また、標的射撃は良く訓練されたロングボウマンで180ヤード (約165m) ほど可能だったとされていますが、現実的には65ヤード (60m) が有効標的射撃距離の様です。

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(アジャンクール = アジンコートの戦い)


ウォーボウ、ウォーボウアロウの威力

ウォーボウによる長距離からの射撃は、装甲の薄い兵には殺傷効果がありましたが、有名な「アジャンクールの戦い」で考えられている様に、ロングボウによる直接的な被害を受けたフルプレートアーマーの重装甲騎士はほぼいなかった様です。
その代わり矢が乗っている馬にあたり、落馬や落馬後の暴れた馬による打撲、骨折、圧死などが多かった様です。
また、鎧を着ていても矢が当たったときの衝撃はそれなりのもので、頭部への中 (あた) り方次第では頚椎の骨折などは充分に有り得ます。
ヘルメットのバイザーの隙間や胴体の関節の隙間などは矢が貫通する可能性は大いにあったため、ロングボウの長距離射撃は精神的にもかなりの牽制効果があった様です。

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(14-15世紀のフランスの装甲騎士)


ウォーボウアロウは最高速度200mph (時速320km) に達する様で、激突時の衝撃はかなりのものです。

弓矢の性能を計るのによく速度計が用いられますが、速度=弓矢の力ではありません。
また、ターゲットへの貫通の深さも=弓矢の力ではありません。

現代のターゲット矢の様に細く軽い矢であれば速度と貫通力はありますが、装甲に阻まれた時点で効果を失います。

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(現代アーチェリーのアルミ矢)


しかし80-100gほどあるウォーボウアロウは、太く、重く、切り裂く事や貫通の深さよりも激突時の衝撃を増幅させる、先端が鈍く質量の高い鏃を搭載する場合がありました。

そうしたへヴィーウォーボウアロウは重装甲の鋼板を貫通せずとも、さながら矛やハンマーによる一撃の様に装甲の下の筋肉や筋や骨を損傷させました。

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(へヴィープレートカッター鏃をつけたへヴィーウォーボウアロウの複製)

また、中/近距離からのウォーボウによる射撃はブリガンディン (小札鎧) や、プレートアーマーの装甲の薄い部分、高品質でないプレートアーマーなどは貫通して致命傷にもなった様です。

「ロングボウは鋼のプレートアーマーに対して有効だったのか?」という議論は現在でもなされますが、現実は矢一本vs鋼の板が貫通するしないの話ではなくて、兵の数、敵との距離、兵士の体力や士気、地形、天候、補給、陣形、戦術、訓度、部隊編成、用兵、さまざまな要因を総合してのロングボウvs装甲騎士なので、あまり意味のある議論ではない気がします。

そして、ロングボウはそれらの要因を総合し、確実に装甲騎士に対して有効でした。
そして戦場にいるのは全面装甲の騎士だけではありません。
装甲の薄い兵や装甲の軽い兵にとってはとてつもない恐怖だったに違いありません。


私は専門家でも歴史に詳しいわけでもありませんし、弓矢に特別詳しいわけでもありませんが、読んでいただき「ヘ〜面白かったな」と思っていただけたなら幸いです。

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