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スポーツとしての中世クロスボウ射撃

中世のクロスボウ

ヒストリカル アーチェリー クラブ ジャパン (HACJ) では中世のクロスボウを使ったスポーツ射撃や、中世クロスボウの歴史的研究も行います。

しかし昨今、現代クロスボウを使った殺傷事件が続き、遂にクロスボウが銃刀法の対象として規制される事となったのを受け、誤解を招かない様しばらくの間中世クロスボウの競技使用を中止しております。

(HACJの中世クロスボウを使ったスポーツ射撃)


(HACJのスポーツ射撃で使用するクロスボウ ボルト、競技内容によってヘッドをゴムキャップ等に変えたり)


規制の賛否

規制の賛否についてクラブとしては「そもそも規制がなかったのがおかしく、規制があって当然」という考え方です。

HACJ所有の中世クロスボウは全て「一般社団法人 全日本クロスボウ協会」にスポーツ利用/犯罪防止の目的で免許証やパスポートを提示し、身分を証明した上で届出・登録をしておりますが、今後は法規制の対象となり所有に際して公安の許可必要になるとの事です。


凶器であることに間違いはないけれど

人によっては金属バットやゴルフクラブを凶器として扱おうとするかもしれません。

しかし、スポーツをする人で、ゴルフのスイング練習中に通行人を狙ってボールを打ち込んだり、野球のノック練習で公園を散歩する人めがけて硬式ボールを打ち込んだりする人は多分いないと思います。
バットやクラブを振り回して人を傷付けようとも思わないでしょう。
アーチェリーや弓道をやっている人が隣のレーンの人に矢を放ったりしません。
私は名の知れた道場で二年ほど剣術を教わり真剣も使いましたが、振り回したり人に切りつけようと思ったことは一度もありません。
スポーツに危険は付き物ですが、スポーツで培われる健全な精神は、危険な道具や行為、それらを習得した技術を、平常時にコントロールするものです。

(インドで行われるクロスボウ競技の様子)


憐れな結末

スポーツとして普及せず、曖昧なかたちでモラルなく販売されていたクロスボウ。
終始マイナーな存在で、グレーゾーンの凶器扱いでした。
行き着く果ては、常識とモラルを逸した一部の人間達によって、完全にネガティヴな存在となり、とうとう世間から理解を得られない凶器として、「不要なもの」という最終判決が下りました。

スポーツの道具の中で、人々の生活に「必要なもの」は多分ありません。
それが、確立された健全なスポーツの道具だから、もしどんなに危険でも「不要なもの」にはならないだけなのです。

もしクロスボウが健全なスポーツとして確立されていたら、ちゃんとした規制が用意され、使う人のモラルを含め今と違った未来が用意されていたのかも知れないと思い、悔しさが隠しきれません。


中世のクロスボウと現代のクロスボウ

さて、中世と現代のクロスボウの話に戻りますと、現代クロスボウの原点はまぎれもなく中世で使われたクロスボウですが、もはや別の道具に生まれ変わっています。

(全日本クロスボウ協会登録、HACJ所有の中世式クロスボウ)

ものすごく簡単に違いを説明すれば、中世のクロスボウは「短く重い矢 (ボルトまたはクォレル) を飛ばす」事を追求した道具で、ドロウレングス (弦を引く距離) が極端に短いため、ドロウウェイト (弓力/張力) が非常に重く (強く) 設計されています。
発射する矢 (ボルト) は極端に短く、現代のクロスボウの様なスピードと安定飛行はありません。


(まるでカブトガニか何かの様な現代のコンパウンド クロスボウ、長いドロウレングスに長い矢)


一方現代のクロスボウは「長く細く軽いボルトを高速で飛ばす」事を追求した道具で、最新の技術と素材で作られており、弦を引く距離が長いため中世のクロスボウよりも矢の飛距離が長く、命中精度が安定しており、矢の速度が早いのが特徴です。

ドローウウェイトの値だけで比べると、中世のクロスボウが圧倒的に重く(強く) 作られていますが、そもそも弦を引く長さが全然違うので、ウェイトの数値だけで比較しても道具としての威力は比較できません。

(全日本クロスボウ協会登録、HACJ所有の15世紀クロスボウ複製品、英国の博物館に複製展示されているものと同じ工房で作られ、歴史的資料としての価値もあります)


ドロウウェイトの数字だけみれば中世クロスボウは桁外れの数値です。
しかし、実際にはインターネットで簡単に誰でも買えるドロウウェイト185ポンドクラスの現代コンパウンドクロスボウの方が遥かに飛距離が長く、速度が早く、命中精度が高いのです。

これと同程度の射程を中世のクロスボウに求めた場合、大がかりな器具を取り付けて弦を引く900~1,000ポンドクラスの重砲クロスボウでなければいけない様です。


ハンティングはれっきとしたスポーツ

猟銃や罠によるハンティング (狩猟) は免許があれば可能ですが、クロスボウや弓矢を使った狩猟は日本において禁止されています。
現代日本人にとってはかなり縁遠い狩猟ですが、海外ではスポーツやゲームとして古くから親しまれています。

(中世の時代からクロスボウや弓矢の狩りはスポーツとしてヨーロッパで親しまれています)

日本で馴染みが薄いだけに、野蛮なイメージが先行するかもしれませんが、射殺した獲物は食料になるのです。

つまり、魚釣りと同じ様に考えてもらえればわかりやすいと思います。
(ちなみに私はキャッチ&リリースの魚釣りは好きではありません)

生き物を食べるには彼らを殺さなければなりませんが、スーパーマーケットで売られてる肉は、全て殺された獣の肉塊です。
そしてその獣たちはこの世に生を受けた瞬間から、スーパーマーケットて肉塊として売られるために飼育されています。

わたしにはハンティングより商業牧畜の方が野蛮に思えます。

(中世の写本には、普段狩られる側のウサギが逆に人間を狩る、キラーバニーが風刺画としてたびたび現れます)


ハンティングスポーツは狩らないスポーツへ

弓矢の起源はハンティングの道具でした。
それと同時期に自分達と異なるコミュニティとの争いの道具に使われました。
クロスボウは人類の歴史に兵器として誕生しました。

両者とも戦いの道具であったのと同時に常にハンティングスポーツの道具でありつづけました。

いつしか人類は戦いやハンティングの練習ために的を射る行為自体を、スポーツにして楽しむ様になりました。

いつでも生き物を傷つける事が出来る道具でも、スポーツの道具として愛せば、人はそれを凶器として使わずスポーツだけに使うことが出来るのです。

スポーツにはそんな健全な精神を養う力を人間に与えてくれるのです。

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