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弓の正しい保持は、垂直か傾斜か?

先日練習の時にメンバーが言いました。
「今さらだけど、弓は垂直に構えたほうがいいのか?それとも傾けたほうが良いか?違いはあるのか?」

どちらだと思いますか?
両者にはどんな違いがあり、どんなメリットがあるのでしょう?
果たして垂直保持と傾斜保持、どちらかに正解はあるのでしょうか?


「自然な」弓の傾斜保持

弓の傾斜保持は伝統弓を扱う人や、弓矢を扱った歴史映画などでよく見かけます。

もしあなたが何の指導も受けずロングボウを渡されて構えた場合、おそらくは自然に弓を傾斜して保持すると思います。

何故だと思いますか?

(歴史映画などで見られる弓の傾斜保持)


理由は弓が視界の邪魔になるからです。

多くの人は弓を引き、照準しようとした時、おそらく自然に弓を傾けターゲットまでの視界を確保しようとするはずで、多くの人は自然に弓を傾けるはずです。


現代の競技アーチェリーの垂直保持


一方現代の競技アーチェリーでは例外を除き弓は垂直に保持されます。
もし現代アーチェリーをするなら斜めの保持は、垂直保持に矯正しなければいけないでしょう。

(現代の競技アーチェリーの垂直保持)

理由は「一貫した射撃が難しくなるから」です。

現代競技アーチェリーはターゲットに精密に矢を飛ばして点数を競うもので、弓も矢もその目的で進化しました。
弓から飛び出た照準器を通してターゲトを狙うため、弓に視界が遮られる事はありません。

さらに弓本体に矢を置く場所 (アロウ レスト) があり、矢を安定して置いていられるので弓を傾斜させる必要がありません。

精密に射撃をするためには、射撃の一貫性が必要になります。
射撃に一貫性を持たせることで、ターゲットの中心に狙いを調整していくことができますが、射撃に一貫性がないと狙いの調整のしようがありません。

弓を斜めに保持した場合、毎回必ず同じ角度に傾けないと矢は正確に同じ場所へ飛んでいきません。
なぜなら弓を左右に傾けることによって矢の軌道が微妙に変わるからです。

毎回同じ角度になる様に自分の筋肉に記憶させるのはなかなか困難な事です。

一貫した射撃というのはつまり、「正しい姿勢で行ったターゲットへの正確な射撃」を何度もコピー再現する、ということです。

ゆえに現代競技アーチェリーでは再現性の高い垂直保持が大事なのです。

では弓の傾斜保持は間違いでしょうか?


「カンティング」と呼ばれる射法

間違いではありません。
伝統的な弓、特にロングボウを扱う多くの射手は弓を傾け、これを「カンティング」と呼んで意図的にやっています。

(アメリカのトリックアーチャー、バイロン ファーガソン氏)


このカンティングをする理由はいくつかあり、もっとも大きな理由が二つあります。

ます先に述べた視界の確保があります。
伝統的な弓にはセンターショットの構造がなく、照準器がついていないので、照準器を介さず自分の目で直接ターゲットを確認するのに確かに弓が邪魔な場合があります。

弓を少し傾ける事によって弓に遮られていたターゲットへの視界が開けます。

アメリカのベアボウ (照準器のない現代弓) シューター、バイロン ファーガソン氏は暗闇の中でのロウソクの火や、投げたコインへの超精密なトリック射撃を行う射手として世界的に有名ですが、弓を傾けて射撃をしています。


動く標的に対しても弓を傾けることが不可欠かもしれません。
自由に弓を傾けることが出来たら、低い姿勢での射撃も可能になります。

ボウハンティングの世界で伝統的なスタイルの弓矢は現在でも根強い人気があり、多くのボウハンターが昔ながらの射法で狩を楽しみます。
 (日本では弓矢による狩猟は法律で禁止されています!) 

(低い姿勢で獲物を狙うボウハンター)

古いスタイルを頑なに貫くボウハンターたちは、ベアボウ (射撃補助器具なしの現代弓) や昔ながらのロングボウをわざわざ好んで使います。

そのため視界の確保や矢の安定保持はさることながら、彼らは姿勢を低く獲物に気づかれずに射程距離に近づき、そのまま射撃して仕留める必要があります。

ハンティングの獲物は動き回り、敵の気配を察知して逃げる標的です。
忍び寄ってせっかく獲物に近づいても射撃の時に弓を垂直に立てたら、きっとターゲットは驚いて一目散に逃げ出すでしょう。

ハンティングなら弓を斜めや水平に保持し、極力弓を立てずに矢を射るのに越したことはないでしょう。
カンティングは時と場合によって、不可欠なテクニックとも言えます。

カンティング (傾斜保持) の注意点

垂直保持と傾斜保持は自分の目的に応じて意図的に使っていれば、どちらが正解・不正解というのは無いと思います。

私は初めて現代競技用弓を初めて手にしたときは自然と垂直に保持しました。
イングリッシュ ロングボウを手にした時、弓を自然に斜めに保持しました。

それぞれの弓の構造が無意識にそうさせたのかもしれません。

(伝統弓のハンターは傾斜保持をしている?)
(美しく直立した弓、コロンビア代表バレンティナ アコスタ選手)


ただし、意図的でない傾斜保持は少し注意する必要があるかもしれません。

その理由として、弓を左に傾けると矢は左方向へ、右に傾けると右方向へ軌道が若干湾曲するようなので、先にも述べたとおり弓の傾きの角度が常に一定でないと、矢が正確にに同じ場所に飛んでいかない、ということになります。
カンティングを使った射撃の場合、的確な射撃をするには常に同じ角度に傾く様に反復練習し、肉体にその角度をすり込む必要があります。
そうでなければ常に矢の軌道がぶれる、ということになります。

静的ターゲットへの精密な射撃を行う場合はやはり垂直保持の方が有効です。
動的ターゲットや自分が動いている場合では傾斜保持が必要になってくるかもしれません。

もしかしたら風の影響を修正するためにカンティングで意図的にコントロールする人もいるかもしれません。

しかし現代の競技用弓は垂直に保持することを前提に作られているのでわざわざ傾ける必要がありませんし、傾けると射撃が安定しない要因になるのでメリットは特にないでしょう。


(トルコの馬上弓)

騎射文化のある国では現在でも高度な馬上射撃をする射手がたくさんいます。

揺れ続ける馬の上から、あらゆる角度で正確な射撃を行う彼らは小さな頃から常に馬と弓と共にあり、弓はもはや体の一部の様なものなのでしょう。

ボールを投げる様に直感的に全てをダイレクトにコントロールして射撃します。

彼らの様な射手にとっては垂直保持も傾斜保持も、もはや関係ないのかもしれません。


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