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Web制作業界に就職するあなたへの手引き(その4)Webの歴史と社会的価値

未経験や他業種からWeb制作業界で働き始める方を対象に、基本的な知識を身に付けていただくための座学連載、第4回です。

前回は「企業が費用をかけてWebサイトを整備するのはなぜか」という解説をお話ししました。今回はWebサイトの直接的なメリットに加えて、Webそのものが持つ社会的意義についても少し補足したいと思います。

Webのはじまり

Webの正式名称はWorld Wide Web(ワールド・ワイド・ウェブ)と言い、1989年にティム・バーナーズ=リーによって発明されたシステムです。誕生からたった30年で、これほどまでに人類の生活を変えた発明が他にあるでしょうか?

現在、Google にインデックスされているWebページだけでも、565億ページ以上になるそうです(*1)。天文学的な数の膨大な情報に、瞬時に、誰でもアクセスが可能なWebは、現代の私たちにとって欠かせない存在です。

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これらのWebページは全て、HTML(HyperText Markup Language)という、その名の通りハイパーテキストのためのマークアップ言語で記述されています。ハイパーテキストとは、ハイパーリンクについて相互に結びついているテキスト(文書)のこと。

HTMLが広く普及した現代では、単にリンクと呼ぶことの方が多いでしょう。クリックすると別ページに画面が切り替わる、アレのことです。

文書と文書がリンクによってつながるという概念は、WWWよりさらに歴史をさかのぼり、ヴァネヴァー・ブッシュが1945年に提唱したMemexにその原型を見ることができます。

これらのWebページは全て、それぞれ重複しないURI(Uniform Resource Identifier)という文字列で区別され、HTTP(Hypertext Transfer Protocol)というインターネット上のプロトコルを使って、全世界中のどこからでもアクセスできます。

その結果、例えばティム・バーナーズ=リーによって1989年当時に書かれたWebの設計書が、HTMLという文書として、下記の驚くほど短い文字列であるURIで、今でも世界中からアクセスできるのです!

https://www.w3.org/History/1989/proposal.html

日常生活では全く意識しないことですが、30年以上前に公開されたものを含む数百億もの文書に取り違いなくアクセスでき、その全てがきちんとブラウザで表示できる。そして、24時間いつでも閲覧できる。そのようなシステムがなかった時代のことを想像すれば、まさに驚くべき人類の叡智です。

より良いWeb

ハイパーテキストには、Web以外にもXanaduHyperCardなど、いくつかの実装がありました。実はこれらのハイパーテキストの方がより高機能だったのですが、それらではなく欠点も多いWebが世界に普及したのは、そのシンプルさゆえだと言われています。シンプルで誰にでも扱いやすいからこそ、より良いものにする努力がひとりひとりのWeb制作者に求められます

その努力の一例が、URIの設計です。URIは、Webページの作成者が自由に作成することができますので、その設計に責任を持つ必要があります。より良いURIの原則とは、「クールなURIは変わらない」というものです(*2)。URIがコロコロ変わっていては、有益な情報が載っているWebページに再訪しようと思っても、すぐに404 Not Foundを見る羽目になります。

また、HTMLも、多少エラーがあってもブラウザがうまくエラーを吸収して表示してくれるため、たいへん扱いやすい技術です。しかし、正しくマークアップを行うことで、文書の中の断片の意味がはっきりし、機械にも文書構造が理解しやすくなります。

具体例で言えば、見出しはきちんと見出し用のタグで囲み、箇条書きはきちんと箇条書きのタグで囲みましょう、という、ただそれだけのことなのですが、文書の意味をきちんと定義することによって、Webページはより活用しやすいものになります。このようなWebをセマンティックWeb(*3)といい、これまたティム・バーナーズ=リーが提唱した概念です。ほんとこの人すごいわマジで…。

機械が文書の意味を正しく解釈することで生じるメリットで、分かりやすいものがアクセシビリティでしょう。人間は視覚から様々な意味を読み取ることができます。例えば、地の文より一部の単語のフォントが太かったりすると、重要な箇所なんだな、ということを人間は自然に読み取ります。しかし、視覚ではなく聴覚で情報を得ている人、具体的には、読み上げソフトなどの技術を使っている人にとってはどうでしょうか。文字が太かったり、赤くなっていたりと言った視覚的な情報は全く得られません。しかし、その太字のところを <strong> という強調だという意味を持つタグでマークアップすることで、読み上げソフト=機械にもその意味が伝わり、読み上げの調子を変えるなどして、聴覚的にも強調であることが伝わりやすく表現することが可能になるでしょう。

残念ながら、アクセシビリティは、行政や上場企業などの高い社会的責任を負っている組織でないと、なかなかそこにお金をかけたがらない分野ではあります。しかし、それに取り組むのは容易です。なにせ、HTMLという技術自体が非常にシンプルなものなのですし、目的も意味を機械に伝えるという分かりやすいものです。ひとりひとりが、ちょっとした意識の持ちようでWebをよりよくできるのです。

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今日のまとめ

前回にもお話ししましたが、情報には力があります。そして情報へのアクセス手段は、民主社会に住む私たちにとって、命綱とも言える大切なものです。発明からたった30年で500億ページ以上の情報を生み出し格納するWebの世界を作り上げたのは、もちろん発明者のティム・バーナーズ=リーの功績も大きいのですが、Webページを作り上げ、インターネットにアップロードする私たち無数のクリエイターひとりひとりの努力の積み重ねでもあるのです。

残念ながら、民主的な情報へのアクセスは、不変のものではありません。その輝かしい成長の裏には、一部の犯罪者から、国家権力までがそれを制限し、悪用してきた負の歴史もあるのです。5G時代を目前にして、大国がこのWebの世界を分割するような動きすらあります。

みなさんも、Webという人類の叡智を、より世の中の役に立つものにする、その使命を負った一員として関わることができるWeb制作という仕事に、ぜひ誇りを持って取り組んでほしいと願ってやみません。


本日の記事は、こちらの名著を片手にまとめさせていただきました。Web制作の仕事を目指すのであれば、必ず読んでおいてほしい基礎知識が網羅されています。


次回はWebサイトにはどんなコンテンツが格納されるのか、という点を、マーケティングの観点から掘り下げていきたいと思います。


連載を第1回から読みたい方は、こちらからどうぞ。

前回の記事を振り返りたい方は、こちらからどうぞ。

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*1 How Many Websites Are There in 2020? [Updated Guide]
*2 Cool URIs don't change
*3 Semantic Web

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