見出し画像

『定本 見田宗介著作集』『定本 真木悠介著作集』【2018年01月08日ブログ記事再掲】

『社会学入門』に衝撃を受けてより、矢も楯もたまらず『定本 見田宗介著作集』『定本 真木悠介著作集』(岩波書店)を購入し、この時期に多い校正と原稿執筆の傍ら、年末年始で読了しました。

なんて豊穣な読書体験だったんだろう。こんな人類知のトップランナーの著作を、日本語で読めるよろこび。見田宗介・真木悠介を読むことに導いてくれた、さまざまな要因に感謝です。

著作集のラインナップは、以下のとおり。

『定本 見田宗介著作集』

1 現代社会の理論
2 現代社会の比較社会学
3 近代化日本の精神構造
4 近代日本の心情の歴史
5 現代化日本の精神構造
6 生と死と愛と孤独の社会学
7 未来展望の社会学
8 社会学の主題と方法
9 宮沢賢治
10 晴風万里

『定本 真木悠介著作集』

1 気流の鳴る音
2 時間の比較社会学
3 自我の起源
4 南端まで

いま、これらを万遍なく紹介するつもりも、その能力もないのですが、とにかく、どの巻もとんでもない知的興奮に満ちあふれていることは、保証します。

それでもあえて選択しろ、と詰め寄られたら、その思考の深さ、展開の見事さ、越境の華麗さという点で、真木悠介名義の諸作を挙げることになるでしょうか。でも、そこから先が選べない。全部いい。

見田(真木)の魅力は、ミイラとりがミイラにならない、ところだと思います。西洋近代由来の論理を(完璧に)身につけながら(父親がヘーゲル学者で、小学生のころからヘーゲルを読んでいたという「変態」です)、その世界では自足できずに、別の世界に赴く。そこで出会ったさまざまな物事に、満腔の共感を覚えながらも、こちらの世界に「帰ってくる」。そして、非条理に条理を立てて、われわれにわかる言葉で説明してくれる。

理性と感性という浅薄な二項対立を、見田宗介という身体が止揚している、そんな感じです(そういえば、ヘーゲルだけではなく、シェイクスピア全作品も、小学生の時に読破したそうな)。あの魂の感度と透徹した論理性をあわせ持つことができるなんて、人類の可能性を感じます。

全著作、とくに真木名義の本に顕著なのですが、扱っている問題の難度・深度に比して、理解が異常に容易で、読者が置いて行かれることがない。とにかく明快なのです。それは表現レベルで、文学的才能をいかんなく発揮して、腑に落ちる比喩と具体例を駆使していることも大きいのですが、やはりそれよりも、物事の本質をとらえようとし、実際にとらえ、完全に理解したうえで、ごまかすことなく伝えてくれているからだと思います。

また、この「定本」編纂の営みからしてそうなのですが、もはや構成が緻密というレベルではなく、構成オタク、構成魔といえるほど、美しすぎる全体像を、どの巻も(また細部においても)備えている。『現代社会の理論』なんて、弁証法のお手本みたいな構成です。

それは例の『社会学入門』もしかりであって、あれはまさに見田社会学の精髄を集めて提示したものだと、『定本』を読んだからこそ、わかります。だから、『入門』に収録されていない、前提となる論文(たとえば「交響圏とルール圏」の前提となる「コミューンと最適社会」)を読むと、さらに『入門』が腑に落ちる。入門書というのは、全体が見えている人間にしか書けないのだな、とつくづく思います。

先に触れた真木悠介名義の全作、そして『現代社会の理論』『未来展望の社会学』あたりに、文字どおり圧倒されてしまったのですけど、『現代化日本の精神構造』は、見田社会学の(問題意識ではなく、学問としての)スタート地点がうかがえ、論壇時評というかたちでの、他ならぬ見田宗介の思想形成の過程が追えて、おもしろかった。

しかしこうなると、やっている分野もちがうのですけど、我が凡才を顧みて、こういうオールマイティの天才を前にしては、やれることなんてほとんどないのではないか、と柄にもなく弱気になってしまいます(もっとも、それよりも天才の著作を読む喜びが先立つのですけど)。まったく、何カ国語話せるんだ。引用する外国の著作は、あきらかに原文で読んでいる。また、理系の壁も軽々と超えていく。実践と身体性も備えているから、理屈だけの机上の学問でもない。

そんななか、『近代化日本の精神構造』を読んだときは、ちょっと安心した。というのも、明治維新を扱っているけれども、引用・参照する資料は、あきらかに活字化されたもののみ。そうか、くずし字は読めないのですね。ちょっとぼくのつけいる隙はあるかな、とみみっちく思いました。といっても、なにしろ「越境する知」の人ですから、該書の問題を解決するのに必要十分だったから活字資料ですませたわけで、必要だったらきっと、あっという間に和本リテラシーを身につけるだろうことは必然です。

とにかく、全部、本気。深く考えているものも、軽やかに書いているものも、すべて偽りのない、自身の根源的な問題意識にもとづいて、本気で書いている。だから、伝わる。しびれる。感動する。そして、こちらも影響を受けて、動き出す。

これから人生をかけて、くり返し読むだろう著作集に出会えたこと、幸いです。しかし、この『定本』に未収録の著述もあるそうなので、落ち穂拾いもしなければ。

【追記】学者にかぎらずですが、個人全集というものは、もはや編纂がむずかしくなりましたね。そんななか、こうして刊行して、まとめて読む機会を与えてくれたのは、ほんとうにありがたいことです。そろそろ、通して再読する時期かな。

http://hishioka.seesaa.net/article/a42240216.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?