見出し画像

エリアF -ハレーションホワイト- 15

 このままでは、留年になってしまう。留年になれば、来年度の就職活動が不可能になる。ぼくは標準より数年早く15学年まで来ているので、1年ぐらい留年しても、大した問題ではない。問題は別の所にある。

 今は社会の全てを、クオンタム(量子コンピュータ)が管理している。個人の情報もそうだ。学歴、賞罰、犯罪歴まで、それこそ信号無視程度のことまで、事細かに記録されている。学歴なら、各学年の成績、評価はもちろん、課外活動の履歴まで残されている。一度赤点をとれば、仮に追試で合格したところで、一流の企業や官庁に就職することはもう困難になるだろう。留年なんてもっての他だ。せっかくのぼくのキャリアに傷がついてしまう。速く進級して留年するぐらいなら、人並みに進級して確実に卒業した方が、まだよかった。自分の意志によらない留年とは失敗と同じことだから、その査定は厳しい。しかも、本当に実力がなくての留年ならまだあきらめもつくが、ぼくは十分高得点をとれる自信があったのだ。それだけに、この失敗は悔やまれる。さあ、どうしようか。

 この絶体絶命の事態を乗り越えるために、ぼくには一つの考えがあった。ぼくは、ぼくの能力を駆使して、この事態を乗り越える手立てを考えていた。それはハッキングだ。

 テストの採点は、全て自動化されている。機械による採点だから採点者の主観の入る余地はなく、全く公平な評価となる。だから今は公教育の全ての機関が、このシステムを採用している。自動採点された答案は、そのままデータベースに保管される。だれもまだ結果を目にしていない今なら、得点をすり変えても誰にも分からない。今ならまだ間に合う。しかし答案が通知表となってプリントアウトされれば、それで一巻の終わり。さあ、一刻も速く家へ帰って、学校のデータベースにアクセスしなければ

 道は低い峠を越えて、緩やかな下り坂になっている。さあ、その先のカーブを越えたら、もうぼくの家はすぐそこだ。ぼくは最後の力を振り絞って、その左カーブへと突っ込んで行った。いつもよりスピードが出ているので、ちょっと外側へふくらみ気味だ。道路の端に寄せようとしたら、少しバランスを崩した。左側は切り立った崖になっているので見通しは悪い。ぼくの行く先にこぶし大の石が転がっているのに気付いたのは、ほんの1、2m手前のところだった。

「ああっ」

 ガンンッ、という震動とともに、ぼくは車道の方へ進路を変えられた。立て直そうと思えば思うほど、反対に自転車は車道の真ん中へと引き込まれた。

「ぶぁーーーーーーーん」

「キュィィィィィィィィィィィィィィィィィィ」

 突然目の前に現れた大型のダンプカーが、タイヤの激しい擦過音と共に、ぼくに襲いかかってきた。ぼくの目の前は真っ白になった。

続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?