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エリアF -ハレーションホワイト- 18

 家へ着くやいなや、ぼくは自分の部屋に駆け込み、誰にも邪魔されないように鍵をかけると、急いでヘッドセット(脳波検出型入出力装置)を着けて、Webの世界に飛び込んだ。

 ぼくが立っているのは、デジタル三次元の、座標軸のみの荒野だった。何もない荒野に、現実世界とをつなぐ扉が、ポツンと一つあった。ぼくが作ったものだ。

「そうだ、ぼくは昨日、瞬間移動でここまでやってきたんだった・・・」

 さあどうしよう。この場所からぼくの学校のデータバンクまで、10数万キロメートルある。ぼくは超音速で飛ぶことが出来るが、それでも30時間以上はかかる距離だ。そんなにかかっていては、テストデータのプリントアウトまでに間に合わない。どうしよう。そう、昨日のように、再び瞬間移動で街まで戻る他はない。

 ぼくは昨日のぼくのアクセスログをロードした。そして、昨日瞬間移動したときのデータの動きを、慎重にたどってみた。ログを見ることで、自分の行動は全てわかる。確かに10万キロを超える距離を、瞬時に移動している。どうしてこのようなことが起こったのかは、詳しく解析してみないとわからないが、でも、今のぼくには時間がない。昨日の動きを逆にたどって、街まで戻るしかない。

 Web内の仮想空間は、単純には三次元の論理座標空間である。現実世界は三次元プラス時間軸の、四次元である。仮想空間では時間軸は現実世界の時間に依存すればよいので、空間を構成する三軸だけで足りる。しかし仮想空間をWeb上に存在させるためには、仮想の町並みを形造るための論理座標に加えて、それをデータとして保存しているディスク上の物理座標が必要なのだ。したがってこの仮想空間は、論理座標三次元プラス物理座標三次元の、計六次元で構成されているのだ。

 Webを利用している普通の知識の人々は、表面の論理座標しか見ていない。しかしWP(Webポリス)やすぐれたQ-HACKERたちは、その下部にある物理座標に直接アクセスしているのである。だから普通の人たちにはできない、さまざまな技が使えるのである。

 ぼくは頭の中で、物理座標における昨日のぼくの動きを再現した。

「よし」

 ぼくは集中した意識を物理座標に飛び込ませ、昨日の逆のルートを慎重にたどった。

続く


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