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エリアF -ハレーションホワイト- 21

 ぼくは遠い昔のことを、あまりはっきりと覚えてはいない。どういう訳か、過去のことを思い出そうとすると、まるで霧の中に迷い混んだみたいに、どうも正確なことが思い出せないのだ。小さい頃からずっと成績は良かったというのは記憶している。でも大雑把に「良かった」とだけだ。どの程度の成績であったか、詳しい数字を覚えていないので、前から知りたいと思っていた。

 どうせここをハックしたのだから、ぼくの過去の成績も見てみようと思った。

 過去のデータは別の保管庫にある。ぼくは廊下を渡って、隣の棟へ移った。相変わらずコウモリがぼくの周りを飛び回っている。こいつが監視システムの一部で、もしぼくが調べられても、ぼく個人のデータが読み込まれないように、意識の集中を切らしたことがない。コウモリが見ているぼくの暗号化された論理座標を、それでもぼくは慎重に変形し続けている。一流のQ-HACKERは、こういうことが当たり前に出来なくてはならない。

 過去のデータボックスも、難なく見つかった。クラスメイトの彼らの第一学年からの成績がずらりと並んでいた。それらも興味はあるが、まずはぼく自身のデータを見たかった。でも、・・・、しかし、ない。ない。他のみんなのデータはあるのに、ぼくの過去データがない。どういうことだろう。ぼくのデータだけが、第15学年分、つまり今学年のデータしかないのだ。もしかして違う場所に保管されているのかとも思い、保存データのインデックスだけをスキャンしてみた。やはりぼくの名前は一か所にしかない。そしてそこには、現時点、今のデータしかない。どうしてぼくのデータだけないのだろう・・・。

続く


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