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エリアF -ハレーションホワイト- 32 最終回

 「この子はほんとうに・・・、ちゃんと、よくなるのでしょうか」

 「ご覧の通り、記憶などの脳内の情報は、新しい脳にうまくコピーされていますよ、お母さん。事故に遭われたのは不幸でしたが、最新の技術と設備の揃っているここに近かったことは、まあ幸いでした。後は、培養が遅れている凌君の体のクローンが、問題なく生育してくれることを望むだけです。彼の細胞の場合、神経繊維だけはうまくクローンが出来上がったのですが、どういう訳か骨格や筋肉繊維が、まだ十分成長していません。クローン技術には、まだまだ未知の領域がありましてね。それだけですね、心配なのは。」

 ぼくは学校から自転車で帰る途中、ダンプカーと接触してしまったのだった。試験の出来が良くなくて、留年するかもしれないと思いながら、ペダルを漕いでいたのは覚えている。見通しの悪いカーブで、目の前にダンプカーが迫っているのに気がつかなかったのだ。ダンプカーも直前までぼくに気がつかず、ぼくははねとばされ、道路の横の崖にたたき付けられ、さらに跳ね返って道路に落ちたぼくを、ダンプがひいていったのだ。

 すぐに病院へ運ばれたが、内臓は全て潰れ、手足は粉々にくだけていた。心肺停止。人工呼吸によって、脳神経系のみかろうじて生きていたが、それでも1時間は持たなかった。

 クローン技術により、ぼくの体は再生する。完全な肉体が蘇る。そしてその新しい体に、奇跡的にダウンロードできた情報をアップロードした新しい脳が移植される。

 もしぼくが、病室のぼくを俯瞰できるのであれば、ぼくは今のぼくのありのままの姿を見る事ができる。ベッドの上部のマットレスもシーツもない無機質な金属の枠組の上に置かれた電子カメラと、マイクロフォンと、スピーカー。そしてそれらに接続された制御用のクオンタム。さらにそのクオンタムに接続されているケーブルをたどると、そこには無数の電極がつけられ、ガラス製の容器の中で培養液に浸された、ぼくのむき出しの脳。

 そして、もっと高く高く、建物の上から俯瞰すれば、ここは再教育センターF棟「再生館」(エリアF)


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