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エリアF -ハレーションホワイト- 13

 E管理域だけはそういう非常に特殊な領域であるから、それを侵した場合の罪は重い。E管理域に侵入した場合の罰則は「死刑」のみである。それも現行犯は、裁判を受けることもできずその場で刑が執行される。E管理域への侵入者には、ヘッドセットを通して特殊な電磁波がおくられ、脳が破壊される。ヘッドセットを使わずに、例えばキーボードをつかっての侵入に対しても、すぐにその所在が確認され、ほぼ間違いなく拘束される。ただ現在のこの複雑なWeb構造において、データ処理が高速に大量にやり取りできるヘッドセットを用いずにキーボードだけでハッキングを行うことは、現実には無理である。だからE管理域をハックすることは、ほとんど即時の死を意味している。

 さらに、上級Q-HACKERたちのうわさでは、F管理域というものがあるらしい。それはE管理域の「裏」にあるという。「裏」とは一体なんだろう。うわさでは、Webを構成している物理ディスクの裏面にあって、広大な容量があるという。また別のうわさでは、論理構造がE管理域とは「裏」、つまり1と0の二進データの全く反対のデータで造られた領域であるともいう。

 誰がつくったのか、何のためにあるのか。それは誰にもわからない。良くある「学校の怪談」などと同じで、あれば面白いが、ただのうわさに過ぎないのだろう。

 瞬間移動してやって来たここがおそらくA管理域の辺境であると判断したぼくは、さっきより大胆に、この場所に関するスキャンを始めた。ああ、やっぱりここはA管理域の辺境だ。中央公園からおよそ西南西に13万kmあまり離れた地点だった。ここから中央公園まで戻るには超音速で飛んでも30数時間かかる。ただA管理域なら幸い、ぼくの能力をもってすれば、全く安全に行動できる。

 30数時間もかけて、この世界への出入り口のある中央公園まで戻ることは、現実的ではない。しかたがないので、ぼくはこの日のデータを暗号化し、ぼく専用のメモリに保存して、仮想空間のこの場所から、ダイレクトに現実世界に戻ることにした。ぼくにはそれぐらいのハッキング能力があった。

 現実世界に戻っても、ぼくは興奮が醒めなかった。ぼくはとてつもない移動方法を発見してしまったようだ。明日は学年末テストだというのに、ぼくはその後一睡もできなかった。

 今日は学年末テストだった。ぼくはいつものように、十分に高い得点でこのテストをクリアする自信があった。だから前日もテスト勉強をせずに、Webの中をうろうろしていたのだ。

 でもぼくは昨晩の発見に興奮し過ぎていたようだ。最終課目の「プログラミング応用多元線形数学」のテストの最中に、ぼく意識はテストから全くはずれて、遠くへとんでいたようだ。眠っていたのではないが、おそらく似たような精神の状態だったのだろう。はっと気がついた時には、残り時間が5分を切っていた。ぼくはもう全て解いて余裕を持っていたから問題ないが、ふと隣の席を見ると、終了時間まぎわであるのに、まだ手を必死になって動かし続けている女子生徒がいた。

「彼女はとても頭が良かったはずなのになあ・・・。どうしてこの程度の問題で、まだ解きおわっていないのだろう・・・」

 どの問題に彼女がつまっているのか不審に思って、自分の答案を見直して気付いた。

「あっ」

 2枚つづり、計4ページの問題のうち、ぼくは最初の1ページしか解いていなかったのだ。

「まっ、まずいぞ」

続く

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