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「名言との対話」4月21日。ジョン・メイナード・ケインズ「経済学はモラル・サイエンスであって自然科学ではない。経済学は内省と価値判断を用いるものだ」

ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes、1st Baron Keynes、1883年6月5日 - 1946年4月21日)は、イギリスの経済学者、官僚、貴族。

イギリスの名門・イートン校を首席で卒業し、ケンブリッジ大学キングス・カレッジに入学。大学卒業時には「僕は鉄道を管理したり、トラストを組織したりして見たい」と考えていた。若い頃は熱心な自由党支持者でもあった。現実の世界に関わっていこうとする実践家の姿勢は生涯一貫している。

ケインズは真善美の追求が人生の至高の目標とするムーアの倫理学に影響を受けている。そして「経済学の巨匠はもろもろの才能のまれにみる結合をもたなければならない」とし、経済学者は、ある程度、数学者、歴史家、政治家、哲学者でなければならないと書いている。事実、ケインズは学術雑誌の編集者、時事雑誌の会長、事業経営者、教授・会計官、国立美術館の理事、音楽美術奨励会の会長、伝記作家、古銭・古書の収集家でもあった。彼の言葉どおり、経済学の巨匠となった。

ケインズは42歳でソ連のバレリーナのリディア・ロボヴァと結婚する。そのことによって付き合う人も変わり、人間の幅を広げていく。そして現実への嘲笑と批判という姿勢から、変革の思想をもとにした計画に目標を変えていく。

2020年現在、新型コロナウイルスの出現によって、1929年の株価大暴落によって始まった世界大恐慌が話題になっている。100年前の大恐慌はどのようなものであったか。

アメリカは1044億ドルであったGDPが4年後の1933年には560億ドルになり、個人所得は858億ドルから472憶ドルになり、生産も収入もほぼ半減した。イギリスも3分の2になった。世界貿易は3分の1に落ち込んだ。そして失業者が増大した。1929年のアメリカの失業率3%は1933年には25%と、4人に1人が失業した。景気回復したピークの1937年の好況絶頂時にも失業者は7人に1人だったから、傷は極めて大きかった。2020年の新型コロナによる不況は、10年前ほど前のリーマンショックを越えて、100年ぶりのこの世界大恐慌と比べ出されている。

節約と倹約は悪であり、政府の役割を大きく評価したケインズの経済学は、19世紀後半を代表するマーシャルのヴィクトリア時代の道徳観に反発し、自由放任という結論を批判した。そして1930年代の不況と失業という資本主義の病を克服し、世界に多くのケインジアンを生んでいる。

ケインズはアダム・スミス『国富論』、リカード経済学、マルクス経済学に比すべき、新しい経済学を打ち立てた。予定調和ではなく、政府による有効需要の創出による景気の制御を提言し、1929年の世界大恐慌以後のアメリカ、イギリスを始め、世界の経済政策を主導した。日本ではマルクス経済学(マル経)に対して、近代経済学(近経)と呼ばれている。近経は現実を理解し批判するだけでなく、現実を変えようとするのが特徴だ。

自然科学(ナチュラル・サイエンス)に対し、人文・社会科学をモラル・サイエンスと呼ぶ。人間を取り囲む自然を研究する科学に対し、人間の内面を探る人文科学、人間と社会との関係を考える社会科学は、倫理や道徳との関係が深くなる。経済学者によって、経済や社会に対する見方や結論がまったく違うことに驚くことが多い。経済学は科学ではないという人もいるくらいだ。研究者本人の倫理観・道徳観が多様だから結論も違ってくる。価値観が方向性を大きく左右する。だから巨人・ケインズは「真善美」の感覚を磨いていたのだろう。

コロナは、世界にどのような影響を与え、どのような経済学を生むだろうか。 今、私たちが直面している危機は、倫理、道徳、価値観などに関わる難問である。ポスト・コロナの世界を考えるには、人間の生き方、社会の在り方、何を大事にすべきか、を問うことから始めねばならない。次の時代は大きく様変わりしているだろう。

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