6月8日。観世栄夫「伝統というのは、壊しても壊しても残っていくもの。ぶち壊すという意味じゃなくて、昨日つくったものを反省して先に行く。その中で残ってきたものが、伝統なんじゃないか」

観世 栄夫(観世榮夫:かんぜ ひでお、1927年8月3日 - 2007年6月8日)は、シテ方観世流能楽師、俳優。

東京音楽学校(現・東京芸大)本科能楽専攻中退。22歳で「喜多流の身体をつくるメソッドに魅力を感じた」とし1949年観世流から喜多流に移り、名手・後藤得三の芸養子となり、十四世喜多六平太、十五世喜多実に師事する。1958年能楽界を離脱し、演出、俳優に専念していたが、兄・寿夫の尽力もあって1979年に観世流に復帰する。京都造形大学教授を長くつとめた。世田谷・九条の会」呼びかけ人を務めていた。この人は反逆児だった。妻は谷崎潤一郎の養女(潤一郎の妻・松子の連れ子)・恵美子。 1983年にはインスタントコーヒーのCMキャラクター「違いがわかる男」としてお茶の間の話題を呼んだ。このCMは私もよく覚えている。

喜怒哀楽を一つの仮面で示す能は、時間と空間を共有した演者と観客が共有する瞬間芸術である。その舞台を甦らせるには、すぐれたエッセイによる他はないと考え観世栄夫は『日本の名随筆87 能』を編んだ。馬場あき子、芥川龍之介、三島由紀夫、野上八重子、白洲正子、高村光太郎、大岡信、小林秀雄、中西進、、、。この随筆集はそれぞれの視点で能を語っていて、読み応えがある。

観世流の祖・世阿弥は「美しい花を咲かせ続けるには、停滞することなく、変化し続けなければならない」と言っている。これは、芸能者についての語りである。このことは、芸能それ事態にもいえることではないか。停滞を避け、変化を続けることによって「花」は咲き続ける。それが伝統なのだろう。子孫である観世栄夫は、伝統を壊し続ける中で、残ったものが本当の伝統になるという。安定や停滞では伝統は生まれない。挑戦と変化への継続的な意志が「伝統」という花を咲かせるのだ。伝統の核心は革新である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?