4月17日。山田智彦「先に何かがあるという思いは、単調な生活のはげみになる」

山田 智彦（やまだ ともひこ、1936年3月23日 - 2001年4月17日）は、日本の小説家。

神奈川県生まれ。1958年、早稲田大学文学部独文科卒業。同大学院文学研究科独文科修士課程修了。

東京相互銀行（のち東京相和銀行）に勤務しながら小説を書き、1967年、『犬の生活』で文学界新人賞に佳作入選しデビュー。以後4回芥川賞候補に挙がる。1971年、初の作品集『結婚生活』を上梓、1976年、長編『水中庭園』で毎日出版文化賞受賞。1976年の『重役候補』以来、企業小説を書き、ほかにビジネス書も執筆。1986年の『蒙古襲来』以来、歴史小説も書く。作家活動を続けながらも銀行員を続け、1999年に同行が破綻するまで監査役や顧問を歴任した。

山田智彦は私より14年歳年長である。「二足の草鞋」の先輩実践者として、知研のセミナーでお呼びしたことがある。その縁もあり、連絡があって私が仙台の宮城大に奉職してすぐに会いに来られ、丸一日色々と話をし、こちらも参考にさせていただいた。私は常に二本足でやってきたが、こういう先輩の経験談や人生観は参考になった。

山田は銀行に勤め始めて最初の日曜日に文学上の師である作家・小島信夫を訪問し次のように言われ、ショックをうける。「一生懸命働け。人が十掴むところを十二掴め。人の二倍働け。そして仕事のウラのウラまで掴まなければ小説も書けない。、、。」

銀行の仕事をやっているうちに小説を書こうといういう意欲をなくしそうになるが、芝居観賞と読書は続けていた。不思議なことに前に読んだ本を再読すると理解力が増していることに気づくようになり、銀行での顧客とのやり取りを通じた人間模様、それを深めていけば小説に使えると思うようになっていく。山田はできるだけ多くの仕事をし、銀行全体の流れをつかもうとする。20年間に多くの上司に仕えたが、優れた管理者は少なかった。また、人生にはチャンスはしばしば訪れるが、また落とし穴も多いとも感じている。このような気持ちで過ごすうちに仕事と小説が混じり合っていく。そして入行し15年経ってみるとエリートに追いつき、追い越していく自分を発見していたのである。

山田は、ゲーテは天才だが、その継承者であり銀行員のように時間管理をしながら名作を書いた作家といわれたトマス・マンも天才ではないと思っていた。トマス・マンは「無名と貧困の歳月は長ければ、長いほどよい」と語っていたがのだ、そこは納得できず、日々焦燥にかられながら進んでいく。

山田智彦のアフターファイブはどうなっていたか、、、、。時間割をつくって机の前に体を縛りつけ、とにかくかき始める。平日は21時から23時半まで創作。24時まで読書。半ドンの土曜日は夕食まで2時間、20時から机に向かう。日曜日は9時から12時まで創作。昼食後2時まで読書。18時まで机に向かう。夜は20時から創作。二足の草鞋の生活では、赤ちょうちん、麻雀、ゴルフ、などとは無縁の生活を送らねばならない。犠牲を払わずには何も成し遂げられないと決意した生活だった。1999年に銀行勤めを辞めて、わずか2年の2001年に亡くなっているから、結果として二足の草鞋は生涯続いたということになる。

何かはわからないが、先に何かがあると思っていると、忍耐力と抑制力を養うことができる。ずっと先を見つめていると、目の前の問題は相対化される。職場でのマンネリ、人間関係の板挟みを乗り越えていくには、二足の草鞋生活は大いに役に立つのだ。先人・山田智彦の人生の軌跡は、このことを教えてくれる。この何かとは「希望」ではないだろうか。