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「名言との対話」7月28日。江尻光一「花は誰のために咲くのか」

江尻 光一(えじり こういち、1926年7月28日-2011年5月6日)は、日本の園芸家である。

東京農大を卒業して須和田農園をひらき,洋蘭の栽培及び品種改良に従事する。1973年からNHKテレビ「趣味の園芸」に出演している。この番組は1967年から総合テレビ、1991年からは教育テレビで放映され、毎回季節に応じたさまざまな花・植物の育て方や管理法などについて実技を交えて解説する人気のある長寿番組だ。

そのホームページで、江尻光一は「趣味の園芸」放送開始直後に、洋ランの栽培の説明を求められたのがきっかけで、以来2000年代まで洋ランを中心に説明を担当した。趣味の園芸プラスや雑誌にも頻繁に登場した」と説明されている。須和田農園を引き継いだ息子の江尻宗一も江尻光一と同様にランに詳しいとされている。1995年NHK放送文化賞。

1991年カトレア「ヨランダ ナカゾネ」での第1回世界らん展日本大賞。1994年(パフィオペディルム「コウガ」)、2011年(セロジネ「ピュアホワイト」)の3度にわたり世界らん展日本大賞を受賞した。2004年には世界らん展で英国王立園芸協会2百周年記念トロフィーを獲得。江尻は「ラン」を育てる大家であった。

2010年第3回市川市民芸術文化賞。日本セントポーリア協会会長などもつとめた。東京農大客員教授もつとめた。

『江尻光一のしくじり園芸日記―失敗から学ぶ花づくりのポイント』という著書では、園芸は才能ではなことを示すため、「いつも枯らしてしまう」「なぜか、花が咲かないか」など、数々の失敗を赤裸々に告白し、失敗から学んだ栽培テクニックを書き連ねていて、ガーデナー志望者の共感を呼んでいる。

講演も多かったようで、最晩年の「私が植物から学んだこと~花は誰のために咲くのか~」というタイトルの講演では、風格ある物腰と穏やかな風貌、そしてスーツに蘭の花をあしらったネクタイで登場している。「植物を育てること」と「人を育てること」は共通するという視点で聴衆に感銘を与えている。

「土作り」とは植物が健全に育つ環境を整えることを意味する。ふかふかの土がいいといわれる。栄養分が豊富で、根が伸びる隙間があり、弱酸性の土がいいそうだ。本や人がまわりにあり、学ぶ自由があり、こだわりが少ない中立に近いところが、人が育つ理想的な環境ということだろうか。「見えないところを大事に」とは、根がしっかりしていないと育たない。つまり基礎を大事にせよという示唆であろう。

禅語に「百花春至為誰開」(花は誰のために咲くのか)という言葉がある。江尻が講演のタイトルに使っている言葉だ。 哲学的な問いである。禅ではこの問いを心に抱きながら、探していくのが大事だとされる。花は誰の為でもなくただ無心に咲いている、自己実現のために咲いている。それを八木重吉「花は何故美しいか。一筋の気持ちで咲いているからだ」とも言っている。人も同じということだろう。

植物は人である。花は人である。そして蘭は人である。江尻光一が取り組んだ「蘭」には愛、美、雅、そして淑女というイメージがある。「美しい淑女」を育てることが江尻光一のライフワークとなった。そのテーマは息子にも引き継がれており、私たちはその姿を愛でることができる幸運を手にしている。

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