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「名言との対話」11月28日。加藤寛一郎「飛行力学を一度、縦書きの世界に移してみよう」

加藤 寛一郎(かとう かんいちろう、1935年11月28日 - )は、日本の航空工学者。

1960年東京大学工学部航空学科卒業。卒業後、川崎重工に入社、のちボーイング社勤務。1971年 -東京大学工学部航空学科助教授。1973年「ヘリコプタ・ロータ・ブレードの曲げ捩りフラッタに関する研究」で工学博士。1979年 - 東京大学工学部航空学科教授。1993年 日本航空宇宙学会役員・評議員。1996年東京大学名誉教授。同年から5年間は日本学術振興会理事を務める。

2004年から2010年までは防衛省技術研究本部技術顧問を務めていた。2016年、坂井三郎を描いた「操縦の神業を追って」で草思社・文芸社W出版賞受賞。

加藤寛一郎『飛行のはなし 操縦に極意はあるか』(技術堂出版)を読んだ。

横書きの本はなかなか読まれないから、縦書きの本を書いたのだそうだ。「飛行力学」を縦書きの世界に移すことを試みた本である。飛行力学の真髄は、技量の非常に優れたパイロットの操縦に現れるというのが加藤の持論である。

コンピュータとエレクトロニクスを駆使した制御系の導入により、飛行は格段に安全になったが、機体を操ることについては頭を使わなくなった。本来は五感と頭脳と腕力と技術を信じて飛んでいたころを思い出そうという趣旨で書いた本だ。

「現代の操縦とはボタンを押すこと」「揚力と抗力」「宙返りと旋回の力学」「飛行における右と左」「ゼロ戦の左ひめりこみ」「ブルー・インパルスの変形因メルマン」「マルセイユの飛行機雲」。以上が目次である。

撃墜王・坂井三郎の飛行技術の「左ひねりこみ」「クイック・ロール」の解析、硫黄島上空でグラマン15機に取り巻かれたときの危機回避のやり方、「まともな飛び方をすると一瞬の静止があり危険、視界を狭めるゴーグルは実戦では用いない。本人へのインタビューの様子と感想も書いてある。神様とも呼ばれる原田実の飛行技術も詳しく述べている。原田は編隊飛行のブルーインパルスのリーダーだ。戦闘機乗りはなめらかな舵を使いこなせる技術が必要で、編隊飛行のリーダーには頭脳の動きが鈍くなる環境下でも適切な「判断力」が要求される。

工学系の学者の書く論文は横書きである。専門の著書も横書きになる。横書きの教科書はなかなか学生が読んでくれないらしい。数字、外来語の多い分野を縦書きにするのは、骨が折れるそうだ。ものを書く時には苦しい思いをするが、数カ月間それに倍加する楽しい思いをしたとの記述が「おわりに」にあり、特に編集者に深く感謝している。

エピソード交えて、楽しそうに縦横に語っている加藤寛一郎は、本当は戦闘機パイロットになりたかったのではないかと思う。1935年生まれということは、遅れてきた青年だったのだろう。それでも東大に航空工学科が復活した世代であったことは幸運でもあっただろう。1927年生まれの人で戦後航空工学科が廃止された世代の無念さを語る人は私も何人も知っている。

加藤寛一郎の著作は多いが、この本には特別の思い入れがあるようだ。この人の名前と分野は知っていたが、初めて向き合ったことになる。空に憧れた少年の心を持ち続けた人であるとほほえましく思った。本日の誕生日で86歳。

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