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「名言との対話」6月19日。木村汎「人間学的アプローチ」

木村 汎(きむら ひろし、1936年6月19日 - 2019年11月14日)は、日本政治学者。享年83。

木村は京都大学猪木正道に学んだロシア研究の第一人者だ。北海道大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授。専門はロシア政治、日露関係。

朝鮮・京城(現ソウル)出身。小説家の山村美紗は実の姉である。京都大学猪木正道に学ぶ。1970年に北海道大学法学部に着任し、1977年に教授。1991年に退官。

木村プーチンとロシア人」(産経NF文庫)を読んだ。ロシア人を対象とした「人間学的アプローチ」である。2017年12月刊行のこの本は1980年の『ソ連とロシア人』の大幅改定版である。

ロシアのプーチン大統領は2000年に登場し2024年までその地位にとどまる可能性があるとしている。47歳から71歳までだ。この間日本の総理大臣は森首相から菅首相まで9人を数えている。そして2024年になって5選され、2030年まで大統領で居続けることになった。

プーチンは自分を「私は、人間関係の専門家なんだよ」と説明している。落とそうと考えた人物を必ず籠絡する、人たらしの名人である。上司には極端なまでに忠実な印象を与えるという能力を持って権力を掴んできた。

就任以来ゴルバチョフエリツィンの改革の引き戻しを行ってきたプーチンは2013年には「保守主義」を採用するとした。オフィスにはピョートル大帝肖像画が掲げられている。プーチンはミニ・ソ連の再建を目指している。

木村は、ロシア研究において、思想、システム制度といった面から研究する客観的アプローチと、文学を中心とする印象論の分裂している好況に鑑み、この2つを結びつける方法を模索している。それを人間学的アプローチと名付けている。

プーチンはまずロシア人である。120から150の民族からなる多民族国家ロシアについて、まずロシア人という一般論を展開した。エリートはソビエト的であり、大衆はロシア的である。そのエリートの代表としてのプーチンを分析するという方法だ。

ギリシャ正教はあの世においては神に仕えることを勧める。そしてこの世においては地上のツアーリに仕えよと説く。プーチンが最近ギリシャ正教に重点を置いているのはここにあるようだ。

プーチンは四半世紀に及ぶ長い間、大国ロシアを引っ張り、世界に大きな影響を与え続けてきた。ロシアの動向は米中関係にも大きな影響を与えるから、この本は大きな意味を持つであろう。

指導者も人間である。生い立ちや出会いや出来事によって価値観が形成されるという仮説を私は持っている。その価値観に沿って人は現実の問題の解決にあたろうとする。だから指導者がどのような政策を採用し、実行するかという鍵は、価値観を探るところから出発すべきである。指導者の性格や能力や関心事項の前提として人間学的アプローチが必要だ。「人生鳥瞰図」と言う方法論を持っている私は、木村の人間学的アプローチという野心的方法論に共感した。

木村汎は最晩年に「プーチン」三部作を上梓している。『プーチン 人間的考察』(藤原書店、2015年)。『プーチン 内政的考察』(藤原書店、2016年)。『プーチン 外交的考察』(藤原書店、2018年)。亡くなる前年に完成させている。人間的考察を土台に、内政と外交について論じている。ライフワークだろう。

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