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「名言との対話」12月25日。加島祥造「尖がらず(△)、角ばらず(▢)、転がっていく(〇)」

加島 祥造(かじま しょうぞう、1923年1月12日 - 2015年12月25日)は、日本の詩人、アメリカ文学研究者、翻訳家、随筆家、タオイスト、墨彩画家。

私の父と同じ大正12年生まれだ。13人兄弟の10番目。早稲田大学在学中に学徒出陣。アメリカクレモント大学院に留学。帰国後に信州大学に就職し30代から13年間を松本で過ごす。山歩き、釣りを楽しみ、碁を覚え、温泉に浸かった。そして本を読み、翻訳の注文にじっくりと取り組んだ。横浜国立大学に移り、40代から東洋思想に関心が向かう。50代から書をならい、67歳から一人で信州伊那谷で暮らし、墨彩画を描く。その住居を晩晴館と呼んでいる。そして92歳まで自由な日々を送った。

中国の古い詩「天意重夕陽、人間貴晩晴」(天意夕陽を重んじ、人間晩晴を貴ぶ)からとっている。一日のうちでもっとも大事なのは夕方であり、人生でも晴れ晴れとした晩年が大事だ。そういう心境という意味でつけた名称だろう。

子どもたちにむけてやさしく書いた加島祥造『わたしが人生について語るなら』を読んでみた。最初はすーっと読むことができたが、2度目に読むと心に響く言葉が多いことに気づいた。「現代人必読の書」と解説にある。その通りかもしれない。

よく遊び、好きなことをし、楽しむことが大切だ。好きなことをするといっても、対象も変わるし、自分も変わっていく。それが心の成長だ。それを続けていると、元気になり、健康になり、いきいきとした状態になっていく。そのエネルギーが「命」の力だ。

嫉妬心が問題だ。嫉妬する人は自分のしたいことをしていない人だ。そういう気持ちを起こさないためにはまず自分を幸福な状態にしておくことだ。そうすれば他人は気にならなくなる。好きなことをしている人は、1人でいても孤独ではない。それが自由なのだ。

英文学者の加島は、ドイツ文学者の中野孝次と同様に東洋思想に引きつけられる。二人の対談もある。老子は、ひとりの人間のエネルギーと宇宙全体のエネルギーとのバランスを説いた。それが孔子の中庸のバランスを含む大きな働きで、「タオ」という。宇宙エネルギーという大きなものにつながっていることを信じてまかせていこう。老子は3つの宝という。他人への愛情、欲張らない、威張らない。深い愛を持ち、質素に暮らし、ゆっくり進む。喜び、驚き、感動をたっぷりと味わい、嬉しいといえる人生をおくるために「命」が与えられた。自分に与えらえた命を信じよう。苦しい時は、窓をあけて外の空気や光や風を取り入れよう。老子は自分が幸福になると、家族、村、郡、国が順々に幸福になっていくから、まず自分を愛せと言っている。

英語のbird's eyeは鳥瞰と訳す。空から鳥の目で地上を見晴らすと世界が見える。それに対し、加島は英語のunderstandの意味は「下に立つ」ことであり、見上げればものごとがよく見えると英文学者らしい解説をしている。「上、下を見ること3年。下、上を見ること3日」という言葉もある。鳥瞰と虫瞰の両方がそろって、人間と世界がわかるということだろう。

変化を受け入れると、良い方向へ向かうことが多くなる。変化を怖がると小さな変化ばかりが気になる。老いていくことは恐怖でも何でもない。何歳になっても自分の可能性はどんどん拓けていくというのだ。

禅僧仙厓の「〇△▢」図を「尖がらず(△)、角ばらず(▢)、転がっていく(〇)」と解釈する。幼いころから〇く転がっていたのに、死の恐怖を感じる軍隊で△にされ、20代から50代の社会人の壮年期に▢となり、60代からまた〇くなろうとし、70代からやっと転がり(〇)始めた。「いま・ここ」にいる自分だけを意識するのが、〇の時代だ。これが加島の一生であるとの人生観だ。

「〇△▢」は、私の書斎にも飾ってある。この図はみるひとに解釈をゆだねている感じがある。加島祥造の「尖がらず(△)、角ばらず(▢)、転がっていく(〇)」は名翻訳者加島祥造の名訳だと思う。

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