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その一球一打を そのものを

プロ野球を楽しむ、ということは、試合を楽しむ、ということなのは一つ間違いない。
プロ野球選手である以上、一軍でなければ数字にも意味はなくて。二軍でやったことは、何も記録に残らない。
ましてや練習で何をしようと、何も残らない。

だけれども。
野球というのは、目の前の一球一打の集まりなのだ。
その一つひとつ。それが魅力なのだ。

ビジター試合の日の戸田は、投げる予定のない投手やリハビリ組がほとんどで、全体練習も短い。それぞれがそれぞれのメニューをして、終えて三々五々帰っていく。
それを何故見に行くのか。何が楽しみかというと、一番はやはりブルペン。目の前で見られると、本当に楽しい。

今日は球場内のブルペンで、星くんが準備するのを見て心が躍った。
先日も捕手を立たせての軽いピッチングで、既に格の違いを見せていた。速さ。球の質。小山田さんが「これがプロの球だよな、思い出したわ。ありがとう」と感心していた、あの時。
今日も、小山田さんが受け始める。
「いい球じゃねーか!おい!」
小山田さんが明るく饒舌になるのは、投手の状態がいい時だ。
「お願いします」
涼し気な顔をした星くんが、捕手を座らせる。
真っ直ぐを投げ込む。その、音。

ああ、星くんだ。

マツケンコーチが笑顔で見ている。
小山田さんの口も止まらない。
星くんは一つ一つ「はい」と返す。
「所沢の星に負けてないな!」
「誰すか」
「昔いたんだよ!」
よく分からないけど。検索すると力士しか出て来ないんだけど。
でも、返しながらも普通に聞き流して。褒められても煽られてもいつも通りの涼し気な星くん。
「ツーシームいきます」
「お洒落だな!」
何でお洒落なのかはよく分からないけど。これがまたすごいらしい。
小山田さんは嬉しそうで。それを笑いながら見るこちらも嬉しくて。
その一球一球を、目いっぱい味わう。
試合ではない、打者に向けてですらない球。
でも、プロの球を、超一流の球を間近で味わうことの。その至福を堪能する。
「フォーク。ワンモアお願いします」
「ワンモアじゃねーよ!もう一丁!!」
フォークは多少抜けていたけど、ラストは一番良かった。

その時間だけは、連敗なんてどうでもよくなってた。
ほんとは良くないけど、でもここに、こんなにも好きな野球があるのだから。こんなにも幸せな瞬間があるのだから。
大丈夫なんだと思える。

星くんは、まだほんとには本調子でないかもしれない。
いずれ試合で投げても、打たれるかもしれないし、勝てないかもしれない。
でも、試合の投球と勝ち負けは全てではなくて、星くんが試合で投げられるようになれば、それはそれだけで価値がある。
同時に、星くんが今ここで投げている球だって、それだけですごく価値があるのだ。
見ていたのは、10人にも満たない人達だったけれども。それでも、見ている者に深々と突き刺さった。星くんの球。
思わず拍手が出るほどの、威力のある球だった。

「俺だからじゃね?」
ブルペンを終えた後に小山田さんが言って、それにも笑ってしまうけど。
いずれは温かく強く、賑やかに、試合に送り出していくんだろう。
プラスのエネルギーに満ちた人。いつも笑顔と元気をくれる人。
それに応えながら、涼し気に、星くんは試合のマウンドに向かうのだろう。

その時が楽しみだ。
その時にも、例え間近で見守れなくても。
星くんの一球を、その一つひとつを大事に受け止めよう。

チームのために。みんなのために。
何より自身のために。星くんが順調に投げていけますように。



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