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メグ sings 江利チエミ 〜 日本における新世代レトロ・ポップス vol.1

(4 min read)

Meg & Drinkin’ Hoppys / Sha Ba Da Swing Tokyo

本日12/15リリースでさっそく聴いています、メグ(民謡クルセイダーズ)がドリンキン・ホッピーズと組んで歌う江利チエミ曲集『シャバダ・スウィング・トーキョー』(2021)。吾妻光良プロデュース。日本にもこうしたレトロ・ジャジー・ポップスの流れがきてますねえ。

アナログ10インチでも発売された四曲14分弱というEPなんですが、これがほんとうに楽しい。とりあげられている江利チエミ・ナンバー四つはいずれも1950年代のレコードだったもので、当時日本でもああいったジャジーなスウィング・ポップスが全盛でした。

端的に言って<ロック勃興前夜>の世界だったといえるもので、日本においては多分にアメリカ進駐軍のキャンプなどを舞台にしてくりひろげられていたものだったかもしれません。チエミもそういうシーンで育ったひとりでした。

メグの歌いかたはというと、発声と音程がややぼんやりしているかもと聴こえる瞬間もあって、実を言うと(ご本人の目に触れるかもしれませんね、ごめんなさい)そんなに大好きだとか上手い歌手だというわけじゃありません。

とはいえ、チエミだってそんなにはですねえ…。それにメグのばあいはこのふんわりしたやわらかいヴォーカルがいい味、個性ですよね。アマチュアっぽさというかちょっとトボケた感じが、レトロなジャズ・ポップスを歌うのにもってこいじゃないですか。

共演しているドリンキン・ホッピーズは東京都内を中心に活動する日本人ジャンプ・ブルーズ・バンド。1930〜40年代のああいったアメリカン・ブラック・ミュージックをこよなく愛する集団で、8管+4リズムという12人編成でぐいぐいドライヴして、そりゃあもう快感。ぼくの音楽趣味本領はジャイヴ、ジャンプあたりですから。

プロデュース、録音、ミックス(「東京ワルツ」ではサイド・ヴォーカルも)をつとめた吾妻光良こそが、日本におけるそういった分野のまさに第一人者なわけで、ジャズ・シンガーとしての江利チエミにフォーカスし、ドリス・デイとかパティ・ペイジとかアメリカでそんなポップ歌手が活躍してヒットを出していた、あの時代の世界観を2021年に再現せんとしています。

ロックンロールのビッグバンがあって以後、世界の音楽シーンはすっかり塗り変わったような印象がありますけれども、その前夜にこんな豊かで楽しくかぐわしい音楽があふれていたのだというあたりまえの事実は、近年見なおされるようになっています。それで主にアメリカの新世代歌手のあいだでリバイバル・ブームが起きていますよね。

日本でも江利チエミみたいな歌手が大活躍した1950年代にはスウィンギーなジャジー・ポップスが大衆音楽の主流で、後年演歌に転向する美空ひばりだってそうだったんですから。メグ+ドリンキン・ホッピーズ+吾妻光良のチームが送り出す今回の『シャバダ・スウィング・トーキョー』、アメリカにおいてはすっかりシーンの中心になってきたレトロ・ポップスの流れを、日本にも運んできてくれたものです。

(written 2021.12.15)


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