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ウェザー・リポート『ナイト・パッセージ』あたりが新世代ジャズのルーツ

(4 min read)

Weather Report / Night Passage

(オリジナル・アルバムは8曲目まで)

ウェイン・ショーターが亡くなったときにウェザー・リポートを全作聴きかえしたというのは前も書きましたが、なかでも1980年リリースだった『ナイト・パッセージ』がこのバンドのアルバムでいちばんいいんじゃないか、っていうのはもちろんあくまで個人的感想ですが、そう思い至りました。

そうそう『ナイト・パッセージ』は発売を心待ちにして胸をワクワクさせながら、まだか?きょうはどう?と日々レコード・ショップに通ってリアルタイムで一枚買ったこのバンドの最初だったんですよ。いまでもよく憶えています。79年にジャズ・ファンになりましたから。

カッチリていねいに練り込まれたアレンジが(ぼくには)心地よく、聴いていてひっかかりがないスムースさ。だから一作すんなり通して終わってしまい「はて?聴いたっけ?」という印象すら残すのは、実は音楽が空気みたいに真にすぐれている証拠なんですね。

じゃあつくりこまれているのか?っていうと、実はこれ全曲が一回性のライヴ・パフォーマンスで、1〜7が1980年7月12、13日のロス・アンジェルス、ザ・コンプレックス、8が同年6.29大阪フェスティバル・ホール。事前に綿密なリハーサルは積んだでしょう。

そんなイキイキとしたナマ音楽ならではのグルーヴを感じることもできるっていうのが、このバンドにしては当時ちょっと新しかった部分です。だからあのころウェザー・リポートの「ジャズ回帰」宣言だみたいなこともずいぶん言われていて、1曲目のタイトル・チューンなんかは4/4拍子ですし、たしかに全体的にジャズを感じる作品ではありますね。

いまの気分で個人的に特に気に入っているのは1、2、6、7曲目あたり。80年当時は3、5あたりもかなり好きでした。5はデューク・エリントンの有名定番曲で、このバンドがカヴァーをやるのも史上初だったし、これもジャズ回帰を印象づけた理由の一つでした。

この上なく美しいバラードである2「ドリーム・クロック」はなんど聴いてもウットリするし、難曲であるにもかかわらず細かいキメをバンドが寸分もズレずにびしばし決めていくグルーヴィな6「ファスト・シティ」もスリリングでカッコいいし。

ジャズ以外の他ジャンルと混淆(フュージョン)しながら、それでもジャズに軸足を置いて新時代の表現方法を切り拓いた名作だとぼくなんかは『ナイト・パッセージ』のことを高く評価していますよ。当時はひたすら楽しいだけでしたが、2023年に聴きなおすとそういった意義を感じます。

2010年代以後的な新世代ジャズ・スタイルのルーツのルーツをさかのぼってさかのぼるとこのへんにたどりつくはずだと思うのに、このごろ一般の音楽ファンのみなさんからはあまり「ウェザー・リポート」っていう文字を聞かなくなりました。

(written 2023.4.1)

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