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とんがらないおだやかさ 〜 ホルヘ・ドレクスレル

(2 min read)

Jorge Drexler / Tinta y Tiempo

いまやスペイン語圏を代表するシンガー・ソングライターみたいな感じになってきたホルヘ・ドレクスレル(ウルグアイ)。最新作『Tinta y Tiempo』(2022)もたいへん心地よく快適な音楽で、好みです。

紹介しているサイトによっては、けっこう攻めたとんがった音づくりだと書いてあったりするんですが、ぼくの印象は逆。安定感があっておだやかで落ち着いた丸いサウンドだよねえと聴こえるのがぼくにはいいんです。

最大の理由はソング・ライティング。親しみやすくきれいなメロディ、そしてホルヘのソフトな歌声がステキってこと。ギターのサウンドとフレイジングも快適。ビート・メイクなんかにはヒップ・ホップ通過後のセンスがしっかりありますが、決して先鋭的には(結果的に)なっていないですよね。

そういったやわらかさがホルヘの特質じゃないかと思います。さまざまな新しい先鋭的な音楽を吸収して、それをしっかり理解・咀嚼・消化して自分のなかに渾然一体のスープ様に溶け込ませてから、はじめて外へ出すかたちで表現するといったあたりが支持を集めている理由の一つじゃないでしょうか。

だから結果的にとっても聴きやすい容貌となってぼくらの耳に届くんです。今作で個人的に特に好みなのは1曲目のメロディ、それもルベーン・ブラデスが出てくるまでのヴォーカル・ラインとか、3曲目のエレキ・ギター・カッティングのまろやかさとか。

あるいはアルバム・タイトル・チューン5曲目の静かでおだやかなサウンドとつぶやくようなホルヘのヴォーカルとか(つぶやきささやき系がぼくはけっこう好き)、ラテン・プレイボーイズみたいな6曲目とか、アクースティック・ギター弾き語りな8曲目もナイス。

わざとチープなビート・ボックス・サウンドを土台に置き、それと演奏ドラマーのビートを混合させつつ組み立てている9曲目もおもしろいですよ。ラスト10曲目だけはギターではなくピアノ中心のサウンド。アルバム全体で管弦のオーケストラも控えめに使われています。

(written 2023.2.9)

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