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過小評価されているマイルズのアルバム 9

(6 min read)

しばらく前、「マイルズを深掘りする」シリーズを書きました。うん、いままであまり評価されず人気もなく、聴かれてこなかったマイルズ・デイヴィスの音楽をご紹介するというものでした。

その副産物的に頭に浮かんだのできょう書いておこうと思ったのが、過小評価されているマイルズのアルバムを九つ選んでみようという企画。キャリアの長い音楽家でリリースされたアルバム数も多いので、そのなかには過小評価なものがわりとあるんですよ。

過小評価と言いましても、もちろん世間一般的にはとか玄人の音楽評論家筋、音楽ジャーナリズム界隈では、ということであって、熱烈なマイルズ狂はどこかしら聴きどころを見つけるもの。

実際けっこう聴ける内容じゃないか、どうしてこれが過小評価されているんだ?と首を傾げるようなものだってけっこうあるんで、ですから機会を見つけてそういうものをまとめて書いておくのは意味のあることだと判断しました。

ベスト・テンじゃなく九作にしたのは、もちろん上掲画像のように正方形にタイルしたかったからっていう、ただそれだけです。

以下、カッコ内に記すアルバム・リリース年順に並べました。

・The Musings of Miles (1955)

 ベースがオスカー・ペティフォードだけど、それ以外はファースト・レギュラー・クインテットと同じカルテット編成。すでにマイルズの音楽は完成されています。特にレッド・ガーランドのピアノがチャーミングで、このバンドにおける彼の役割の大きさを思い知りますね。名作ではないけれど、もうちょっと評価されていいはず。

・Miles Davis and Milt Jackson Quintet / Sextet (56)

 なにかというとこればかり挙げている気もしますが、隠れた名作、hidden gemです。ブルーズ・ナンバーを中心にやっているこのアルバム、ハード・バップのおいしさを凝縮したような好内容。ヴァイブラフォンのミルト・ジャクスンとピアノのレイ・ブライアントのうまあじにはうなります。いままでだれも言ってこなかったけど、傑作でしょう。なぜ聴かれない?

・Seven Steps to Heaven (63)

 キモは三曲のロス・アンジェルス録音。ベースのロン・カーターだけを引き連れ、ほかはLAのセッション・ミュージシャンたちを起用してオールド・スタンダード・バラードを展開しているのが聴きものだと思うんですよね。切なく哀しく淡々と吹くマイルズは本領発揮だし、ヴィクター・フェルドマンのピアノも好演だとぼくは思いますね。

・Miles Smiles (67)

 ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズを率いたセカンド・クインテットの諸作のなかではちょっと地味な立ち位置のこのアルバム、中身はどうしてなかなか傑作です。トニーを中心とする変形ラテンな8ビート(+4ビート)のポリリズムが楽しい。

・Filles de Kilimanjaro (69)

 このへんから新時代のニュー・ミュージックに本格的に取り組むようになったマイルズの、最初の傑作。いまだに評価が低く聴かれないのは謎です。ジェイムズ・ブラウンの「コールド・スウェット」のリズム・パターンを下敷きにした「フルロン・ブルン」、ジミ・ヘンドリクスの「ウィンド・クライズ・メアリー」のコード進行を使った「マドモワゼル・メイブリー」など、シビレます。アフリカ音楽への接近も顕著。

・Live-Evil (71)

 実は電化マイルズでいちばんすごいとの声もあるくらいな二枚組。スタジオ小品はとばして、1-1、4、2-2、3のライヴ・サイドを聴いてほしい。1970年12月のライヴで、バンドも最高にグルーヴしています。エレピのキース・ジャレットとエレベのマイケル・ヘンダスンが壮絶。

・Black Beauty (73)

 録音時期は『ライヴ・イーヴル』より前の70年4月、フィルモア・ウェストでのライヴ。1969年のロスト・クインテットとさほどバンド・メンバーも変わっていないのにこの変貌ぶりは、ロックの殿堂フィルモアという場所がもたらしたものでしょう。タイトにグルーヴするバンドと、フェンダー・ローズにエフェクターをかませてダーティ&ナスティに弾きまくるチック・コリアがたまらない。

・The Man With The Horn (81)

 当時もいまも評価の低いこのカムバック・アルバムですが、いま虚心坦懐に聴きかえすとけっこうおもしろいアルバムなんじゃないかと思えます。しかもかなりジャジーです。マーカス・ミラーとアル・フォスターの奮闘ぶりも目立ちます。いいバンドだったなぁ。

・Doo-Bop (92)

 イージー・モー・ビーのプロデュースした、死後リリースのヒップ・ホップ・ジャズ・アルバム。傑作じゃないかとぼくは思っているんですけどね。ジャズ・フィールドからクロスしたかたちでのこういったヒップ・ホップ系の音楽というのが当時まだほとんどなかったせいか、低評価なのが残念。マイルズのトランペット・サウンドは、むかしとなにも変わらぬ水銀のよう。

(written 2021.6.2)


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