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バルキースとハリージの昨今

(5 min read)

Balqees / Arahenkom

bunboniさんのブログで知りました。

このブログBlack Beautyを2015年9月3日にはじめたとき最初にとりあげたのはハリージ歌手のディアナ・ハダッドで、翌年元日の記事もやはりハリージ歌手モナ・アマルシャを書き、うん、ちょうどそのころ、ぼくのなかでハリージ・ブームがあったんです。

個人的にというより世間で2010年代前半〜なかごろはハリージ・ブーム真っ盛りでした。アルバムが続々リリースされていたのに、しかしここ数年はパタリとニュースを聞かなくなりましたよねえ。大好きな音楽だったんですが、もうハリージは消えちゃったんでしょうか。

いやいや、音楽というよりダンスの名称であるハリージ、もちろんアラブ湾岸地域ではそんな簡単に終わってしまうはずがなく。ずっと前からあった民俗ダンス・ビートで、ポップ・アルバム化されリリースが相次いでブームになっていたのは一時期のことだったかもしれませんが、それが立ち消えになっても現地ではあいかわらずハリージにあわせて踊っているのでしょう。

とはいえ、ハリージで踊る習慣が日常的ではない日本人のぼくは、ただリリースされる音楽アルバムを聴いて、そのヨレてツッかかるような異様にギクシャクした変態ビートにひたすら快感をおぼえているのみ。すっかり作品が出なくなった昨今はちょっとさびしいなあと、過去のハリージ・アルバムを聴きかえしブログ開設当時の思い出にふけっています。

そんななか、2021年6月のbunboniさんの記事でひさびさに「ハリージ」の文字を目にして、ちょっと小躍りしちゃったんですよね。バルキースというイエメン系UAE(アラブ首長国連邦)人歌手で、その2017年作『Arahenkom』もみごとなハリージ・アルバムです。17年というとハリージ・ブームが下火になりはじめていたころでしょうか。

バルキース本人でしょう、どうしてボクシング・グラブをはめているのか意味不明なジャケット写真はおいといて(意味不ジャケがたまにあるアラブ歌謡界)、中身の音楽は充実しています。ビートの効いたハリージ・ナンバーが中心ですが、ちょっと注目すべきはバラード系の充実です。

ハリージ・ナンバーでもサウンドが洗練されていて、ありがちな土着的泥くささは消えています。それが音楽の魅力を増すことにつながっていますよね。バラード系なら1曲目「Aboya Waheshni Geddan」、7「Hakeer Alshouq」、10「Yakfi」、12「Ajouk」。どれも歌える実力を持つバルキースのヴォーカルをきわだたせるメリハリの効いたアレンジで、みごとです。

特にバラードでありかつハリージ的でもあるっていうラスト12曲目は聴きもの。アルバム全体の音楽傾向を象徴する内容で、ハリージにしてやりすぎず、バラードにしてただのしっとり系でもないっていう、そのちょうどいい中間的な折衷具合はプロダクションの勝利でしょう。バルキースの歌も聴かせます。

もちろん2、3、4、5、6、10、12曲目あたりのダンサブルなハリージ・ナンバーも楽しくていいですね。もとがアラブ湾岸地域の大衆ダンスであるハリージですが、そのブームが去った背景には、激しい泥くささよりもジャジーに洗練されたスムースでおだやかな音楽が世界的に主流になってきたからということがあるかもしれません。

2017年リリースのバルキース本作を全体的に見渡すと、うっすらとかすかにではありますがそんなジャジー・ポップな世界的潮流が流れ込んでいるかのように聴こえる展開もあったりして、これなもんだからイビツなハリージが人気を長く維持できるわけなかったんだなあと納得できたりします。

ハリージ、たまに聴くと楽しいんですけどね。

(written 2021.12.18)

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