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あなたはいずこ?〜 4分18秒の小さな宝石(二回目)

(4 min read)

Christian McBride / Where Are You?

きのうの『おだやかな音楽』セレクションで思い出したアメリカ人ジャズ・ベーシストのクリスチャン・マクブライドがコントラバスを弓で弾く「Where Are You?」が、好き。もう大好き。2009年のアルバム『カインド・オヴ・ブラウン』ラスト・ナンバーですが、なんかい聴いても泣いてしまいます。

これは以前一度書いたことですけどね。アンタまた同じこと言うのか、とあきれられそうですが、めっちゃきれいで感動的なのに忘れちゃっていたんです、マクブライドのあのアルバムのことを。全体としてはなんでもない標準的な作品ですから。

それなのに、ラストの一曲だけこんな宝石なもんだから、思い出すとまたつづりたい気分になってしまうんです。一枚一曲主義ということを以前書いたこともありますが、どんなアルバムのなかにだって一曲だけでもいい玉がみつかれば(ほかが石でも)ラッキーで幸せで飛び上がるようなことだとぼくは思っているし、書いておく価値もあります。

Spotifyで聴くと異常に音量が低いこのアルバム『カインド・オヴ・ブラウン』、だからほんとうは「ウェア・アー・ユー?」もプレイリストに選びにくかったんですけれど、こんなにもきれいなものだから、どうしてもガマンできず。曲は1937年にジミー・マクヒュー(曲)とハロルド・アダムスン(詞)が書きガートルード・ニースン(Gertrude Niesen)が初演したもの。

その後主にジャズ系の多くの歌手や演奏家にカヴァーされて有名になった曲ですが、今回その多くを聴けるだけ聴いてみて、やはりマクブライド2009を超えるものはない、これこそ至高のものだと確信しました。こんなにも美しい演奏、というか音楽はないでしょう。

ピアノと弓弾きベースのデュオ演奏(アルバム中ほかの曲にはサックス、ヴァイブラフォン、ドラムスがいる)というふたりだけの静かで淡々としたサウンドなのもいいですね。「私をひとり残して、あなたはどこへ行ってしまったの?あなたなしなんて考えられない」という悲哀をつづるのに、おだやかでクールな表現のほうがかえってフィーリングがきわだちます。

弓弾きコントラバスの音程がきわめて正確なのも演奏の美しさを強調しています。ジャズ・ベーシストはピチカートを常用しますから、そのへんが多少あいまいでもふだんさほど問題にならないんですが、弓で弾いたときにバレてしまうんです。ところがマクブライドのこの演奏では完璧に正確。

音色もきれいでさわやかに丸いし、コントラバス演奏における100点満点の理想型を実現していて、それでもってこの切なく哀しく美しいメロディ・ラインを、インスト演奏だけどまるで歌詞の意味をかみしめ込めていくかのごとくナイーヴ&ストレートに弾くさまに、まるで感嘆のため息しか出ません。

Spotifyで聴ける「ウェア・アー・ユー?」のうち代表的なものをちょっとだけ拾って並べておきました(↓)。クリス・コナー、フランク・シナトラ、アリーサ・フランクリン、ボブ・ディラン、ソニー・ロリンズ。YouTubeには初演のガートルード・ニースンによるブランズウィック盤オリジナルSPもあります。

(written 2022.8.18)

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