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むかし渋谷にマザーズというCDショップがあって(マイルズ・ブートを買っていたところ)

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いまでもあるんじゃないかと思いますが確認していませんマザーズという渋谷のCDショップ。主にブートレグを扱っているお店で、東京在住時代にマイルズ・デイヴィス関係のブートは大半ここで買いました。総額100万円やそこらじゃありません。

そこと通販の名古屋サイバーシーカーズですね日本のマイルズ・ブート聖地は。西新宿のブート街にもちょっとあったんですが、あのへんはどっちかというとロック系ブートでしょ。マザーズはジャズに強かった。といっても店名で知れるとおりフランク・ザッパも置いていました。

マイルズ・ブート関係でのマザーズとサイバーシーカーズは、中山康樹さん『マイルスを聴け!』何版目かの巻末にひっそりと記載があって、それで知りました。同様のマイルズ・ファンは多かったはず。マイルズにかんしてはこうした情報というかリーダーシップを持っているひとだったので、書く文章には疑問を感じることが多々あったものの。

いちおうは通販もやっているマザーズですがそれは電話&銀行振込でってことなんで、やっぱり渋谷の路面店に足を運ぶというのが基本でしたね。しかしここはとにかくどこにあるのか場所がわかりにくくって、初回はずいぶんさがし歩きましたよ。

宇田川町のジーンズ・ショップ二階に初期のタワーレコード渋谷店が入っていた時代があったでしょ。みなさん憶えていらっしゃいますか、ぼくそこでたっくさんレコードやCDを買ったんですけど、その道路をはさんだ斜め向かいあたりの雑居ビル二階の一室で看板も出さずに営んでいるのがマザーズでした。

ほんと店名すらどこにも出ていないんだから、最初はだれもたどりつけませんよねえ。むろん音楽の著作権者に許諾を得ていないブートでの商売は違法なので、看板など出しておおっぴらにやることなどできないっていうことなんでしょう。

マイルズ・ブートで個人的にそそられていたのは1969年から70年代もの、それもライヴ音源です。文字どおり山ほどマザーズで買いました。オーディエンス録音だとあの当時まだ機材が不十分だったので聴けたもんじゃなかったですが、なかにはこりゃオフィシャル筋からの流出じゃないのかと推測できる極上のものもあったりして。

お店の在庫点数としては80年代ライヴ音源のほうが多かったと記憶しています。音質も向上したんですが、音楽的にさほどでもなかったというのと、もう一点、来日コンサートにぼくも行けるようになったので満たされていたような気分で、さほどブートをあさり狂わなくてもいいなと感じていました。

復帰後は毎年のように来日するようになっていたし、あのころのマイルズ・ライヴがどんななのか、わかっているつもりでした。つまり70年代ものは数の多くない公式ライヴ・アルバムで聴くしかなかったから、なんだか雲をつかむようなぼんやりした像しか結んでいなくて、不充足感をなんとか埋めようとブート・ライヴCDを買っていました、マザーズで。

ここまで思い出して書き記してきたのは、こないだSpotifyに『Tivoli Koncertsal (Live Copenhagen ’71)』というアルバムが突然載ったから。1971年でコロンビア・レガシーからのリリースじゃないものはすべてブート。サブスクでもときどきこうして非公式海賊音源が出てきますよね。業者が入れているのでしょう。

それでちょっと耳を通しながら、ブートを買いあさっていた時代があったなあとなつかしんでいるというわけです。いまでも自室にはそれらの山がありますがもはや聴くことはなく。スタジオ/ライヴのいかんにかかわらず公式録音でも70年代マイルズって(一部を除き)ほとんど聴かなくなりました。イキっていないおだやかでサイレント・ウェイっていうかピースフルな音楽が好きになりましたから。

マイルズってだいたいはそんな静的な指向の音楽家なんですよ。70年代に狂っていただけで。かつてのぼくなら『Tivoli Koncertsal』もワクワクしながら聴いたかもですが、いまとなってはもはや。

そうそう、マイルズ・ブートがどんどん出るようになったのは1991年9月の逝去後です。まるで雪崩というか土砂崩れというか堤防が決壊したみたいなリリース・ラッシュになって。やっぱり本人がいるかいないかっていうのが大きいんでしょうね。

(written 2023.3.25)

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