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古風でシンプルだけどメキシコへの深いリスペクトがきわだつ 〜 ナターリア・ラフォルカデのルーツ集四作目

(5 min read)

Natalia Lafourcade / Un Canto por México, vol. II

こちらも今年五月のリリースだったのに、書くのがずいぶん遅くなってしまいました、のんびりでごめんなさ〜い(って謝る対象がどこにもいないけど)。メキシコのナターリア・ラフォルカデがリリースしたメキシコ古謡集の最新作『Un Canto por México, vol. II』(2021)です。

ラテン・アメリカの曲をひろく扱った『ムサス』シリーズが二つに、今回はメキシコ・シリーズの二作目で、これで合計四作目のクラシカル路線。『ムサス』シリーズもメキシコの曲が中心でしたから、ナターリア自身、自国の音楽伝統に立ち帰ろうという姿勢なんでしょうね、2017年来。

なんだかライフワークのようになったなあと思うんですが、今作『Un Canto por México, vol. II』は集大成的な意味合いを帯びているような印象があります。それは過去に一度は自身で歌ったレパーリーの再演、セルフ・カヴァーが多いからなんですが、過去三作の伝統歌謡ルーツ探求シリーズをふりかえり、総括しようとしているのかもしれないですね。

このナターリアの『Un Canto por México, vol. II』、具体的にだれのどんな曲を歌っていて、どれがいつの再演かみたいなことなど諸々、エル・スールのサイトにとてもくわしく記載されていて、原田さん、ふだんあっさりなのに、どうしてここまで?と思うほどなんで、ぜひそちらをご一読くださいね。

これがあれば、ほかに解説なんていりません。個人的に特に気に入っている部分についてだけカンタンにメモします。まず3トラック目のメドレー。特にその2曲目がフランク・ドミンゲス作のフィーリン「Tú Me Acostumbraste」で、これって今年アントニオ・ザンブージョ(ポルトガル)も歌っていましたけど、もう大好きな曲なんですよね。

だからそれをナターリアが歌ってくれたっていうのがうれしくて、といっても二回目ですけどね。一回目は『ムサス』Vol.1収録のオマーラ・ポルトゥオンドとのデュオでした。2017年のことで、そのヴァージョンと比較するに、今回のはナターリア一人で歌うその歌手としの成熟もわかりますし、ボレーロ・メドレーふうの一部であるがゆえ、この曲に入った瞬間のなんともいえないフィーリングがこたえられません。

やはりメドレーの5トラック目。チリ出身、現在メキシコで活躍するモン・ラファルテの自作二曲を、ラファルテ自身をゲストにナターリアと交互にランチェラ仕立てで歌っているのも実にいいですね。メキシカンというよりかラテンな哀愁が身に沁みる調子で、ナターリアがどうこうっていうより曲そのものがいいんですよね。

そう、なんだかアルバム全体を通してわかるのは、古風だけどシンプルなサウンドに乗せたナターリア自身の淡々とした歌い口で、原曲のよさをフルに活かそうとしているなあという姿勢が目立つこと。こういう地点というか持ち味まで到達するにいたったというナターリアの円熟がわかる内容で、そんなところぼくはおおいに気に入っています。

古いカンシオーンふうになっている7トラック目「Recuérdame」もすばらしいですし、カエターノ・ヴェローゾをゲストにむかえてデュオでやっている9トラック目「Soy Lo Prohibido」はランチェラ・アレンジ。カエターノはスペイン語で歌っていますが、このブラジル人の声は周囲をぜんぶ喰ってしまうチャームがありますね。

ラスト11トラック目「Para Qué Sufrir」もナターリアにとってセルフ・カヴァーですが、この曲はメキシコ古謡じゃなくてナターリアの自作ナンバーですね。ウルグアイのホルヘ・ドレクスレルとのデュオ。ギター一本だけの伴奏(どっちが弾いているの?)でインティミットなムードは、パンデミック下のステイ・ホーム状況にあって、これ以上ない音楽です。

(written 2021.11.1)

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